●『仁木兄妹長編全集1 夏・秋の巻』 仁木悦子 出版芸術社 読了。
長編が二編収録されている。
「猫は知っていた」
数十年ぶりの再読である。当然内容はすっかり忘れており、まっさらの状態で読んだ。引っ掛かる点がひとつ。事件の背景を成すある情報が、(伏字)ことに依存しているのだ。もっともこれは私の好みの話で、作品の質の話ではない。
事件を支えるある仕掛けは、そんなに上手いこといくのか? と思ってしまった。だがこれも作中でそれなりの描写が重ねられているので、あまり気にすることではない。上手くいったから事件が成立したと思えばよろしい。
それ以外は、全般として満足である。伏線が多く、ロジックの興味もある。隠されていた背景や人間関係が、じわじわと明らかになってゆく面白さもある。特に以下のふたつの展開はなかなか感心した。ひとつ。序盤と終盤とそれぞれ独立した些細な記述が、組み合わせることで重要な意味を持つ。もうひとつ。犯人ではない第三者の事件とは無関係な行動が、殺人へと波及してしまう。
「林の中の家」
五つの家の大勢の人々が、過去から現在に渡って複雑に絡み合う。新たな情報が出てくる度に、物語の焦点がある家から別の家へと、ある人物から別の人物へと、時々刻々移り変わってゆく。ちょっとした脇役だと思っていた人物が、ある瞬間重要人物となって立ち上がってくる。読みながら私が連想したのは、ロス・マクドナルドであった。
それはそうと、全体はずいぶん読むのがしんどかった。読了しての感想もどちらかといえばネガティブ寄りである。否定的な文章を公開してもしょうがないので、この項はこれだけ。(以下、段落ひとつ分非公開)ただ、全体が練り込まれており伏線が多く仕込まれていることにはずいぶん感心した。冒頭のシーンの位置付けも上出来である。
●すごく久しぶりに、ブックオフで本を買う。
『やさしい小さな手』 L・ブロック ハヤカワ文庫
先日読んだローレンス・ブロックのスカダーシリーズには、短編がいくつかある。そのほとんどは二見書房『石をはなつとき』に収録されているのだが、一編だけ例外がある。その一編「ブッチャーとのデート」が収録されている本である。
ところでこの本、ブックオフのネットショップで注文して店頭で受け取ってきた。わざわざこちらから店に出向く手間はあるが、送料がかからないというメリットの方が大きい。この方式は気に入った。