累風庵閑日録

本と日常の徒然

狭夜衣鴛鴦剣翅

●お願いしていた本が二方面から届いた。
『狭夜衣鴛鴦剣翅』 並木宗輔
『脱獄王ヴィドックの華麗なる転身』 V・ハンゼン 論創社

●書店にて、創元推理文庫の新刊『ヴァルモンの功績』をチェック。文庫化に際して追加されたホームズパロディの素性を確認すると、二編とも手持ちの本に収録されているし、既読であった。元本である国書刊行会版を買ってあるので、文庫の購入は見送ることにする。

『見知らぬ乗客』 P・ハイスミス 角川文庫

●『見知らぬ乗客』 P・ハイスミス 角川文庫 読了。

 しんどい本。ねちこい緊迫感が、読んでいて疲れる。サスペンスの質が次々と変わってゆくのが、しんどさを維持し中だるみしない。その質とは、殺人者の興奮、殺人を要求する脅迫、日常に侵入する異分子、良心のとがめ、発覚への不安。探偵の執拗な追及や否応なく破滅へと転がり落ちてゆく展開もしんどい。いやはや、疲れた。

 ハイスミスを読んだのはずいぶん久しぶりである。忘れていたけれども、この人ってこういう嫌な作品を書くのだった。その筆力も、本書の力強さも、一級品だと思うがもう読まなくていい。疲れるから。

石を放つとき

●取り寄せを依頼していた本を受け取ってきた。
『石を放つとき』 L・ブロック 二見書房
 長編と短編集と、二冊の合本だそうである。だが長編といっても百五十ページしかない。短編集の方は傑作集のようで、十一編全て既訳だしうち九編はいくつかの文庫に収録済みである。こんな構成にしたのは、ページ数を確保して本の価格を維持するための、営業戦略上の判断なのかもしれない。

●今月の総括。
買った本:十一冊
読んだ本:十冊

『ザ・ハードボイルド ものにこだわる探偵たち』 馬場敬一 CBS・ソニー出版

●『ザ・ハードボイルド ものにこだわる探偵たち』 馬場敬一 CBS・ソニー出版 読了。

 ハードボイルド・ミステリに登場する様々な物を題材にして、作品の引用を交えて蘊蓄を語る。題材は多岐にわたり、ほんの一例だが酒ならバーボン、ライ、スコッチ。煙草ならシガー、パイプ、手巻き。他にも銃、車、服、住居、食事、などなど。

 三十四年前の本である。ジェイムズ・クラムリーが先端だった頃だ。読んでいると、当時のあれこれを思い出す。読んだ本のこともその他のことも。我が身を省みて、懐かしいとも、愚かしいとも、幼いとも、なんともかとも。

 当時は私も私立探偵小説を読んでいたが、今はほとんど読まなくなってしまった。それどころか、かなりの本を手放した。いろいろあって、このジャンルはもう読まなくてもいいと決めたのである。ただしわずかな例外はある。ロス・マクドナルドは全長編を読みたいし、マット・スカダーシリーズの新刊は書店経由でhontoに取り寄せ依頼中である。

●注文していた本が届いた。
『スーザン・ホープリー』 C・クロウ ヒラヤマ探偵文庫
『蒼き死の腕環』 長田幹彦 ヒラヤマ探偵文庫
『粘土の誘惑』 A・ブラックウッド 私家版

『保篠龍緒探偵小説選I』 論創社

●『保篠龍緒探偵小説選I』 論創社 読了。

 収録作中で最も気に入ったのが「襲はれた龍伯」で、ちょっとした捻りが盛り込まれている。次点は「指紋」で、ヘイコラした子分格だと思っていた人物が意外な活躍を見せる。

 冒頭の二長編、「妖怪無電」と「紅手袋」とは、通俗活劇のただ一言。主人公はそれぞれ侠盗龍伯であり蛇の道お銀であるが、彼らの造形は何でもできるスーパーヒーローの記号のようなものである。そんな記号的人物が、凶賊一味を向こうに回して獅子奮迅の活躍を演じて見せる。私は講談をよく知らないのだが、巻末解題によると作品の味わいは書き講談そのものだそうで。

 ルパンの翻訳で有名な保篠が、創作ではどういう作品をものしたのか。本書はそういった歴史的興味で読まれるべき意義がある。個人的には保篠訳のルパンに馴染みが無いので、あの保篠が、という興味は薄いのであるが。

●お願いしていた冊子が届いた。
金田一耕助用語辞典』 木魚庵
 諸般の事情で文フリにはいかなかったので、某氏に代理で購入して送っていただいた。ありがたいことである。

●毎年岡山県は倉敷で開催されている横溝イベントが、今年は中止になった。代替企画として、「1000問の金田一耕助」なる検定試験が実施されることになった。本日その問題が届いたので早速中身を観ると、問題によって難易度にかなりばらつきがあるようだ。本やネットで調べてもいいルールなのだが、それでもてこずりそうな問題がちらほらある。回答提出の締め切りは今年いっぱいなので、少し時間をかけてやっていこうと思う。

『ねらわれた女子高校生』 園生義人 春陽文庫

●『ねらわれた女子高校生』 園生義人 春陽文庫 読了。

 歌手志望の高校生凪ユカ子。彼女の家族と芸能関係の人々。そんな登場人物達が入れ替わり立ち替わり物語をつむいでゆく。こういうのを明朗小説というのだろうか。恋と嫉妬と痴話喧嘩。誤解と嘘とすれ違い。女たらしと貞操の危機と。大小様々な事件が次から次へと起こり、下世話な面白さがある。

 価値観や風俗は古いが、人間の行動様式は今とさして変わらないようだ。アイドル志願の少女に妙な連中が寄ってくるなんて図は、今の現実でもありそうではないか。

●お願いしていた本が届いた。
『モンタギュー・エッグ氏の事件簿』 D・L・セイヤーズ 論創社
 すでに一般販売していてやきもきしていたのだが、届いてよかった。

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第八回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第八回として、第二巻を読み進める。今回読むのは、「シヤアロツク・ホウムズの冒險」の後半六編である。訳者は延原謙。いまさら感想でもないので、いくつかコメントだけしておく。

「青い紅玉」にて、髯をあんな風に刈ってポケットから金時計をのぞかせている男は賭け好きだってえのは、いくらなんでも強引だと思う。「緑玉の寶冠」では事件がめでたく解決したように書いてあるけど、工芸品の破損は取り返しのつかない損害なのでは。修復する技術があるのだろうか。

「まだらの紐」は、あらためて読むと実によくできた作品である。事件と同時に聞こえた音、被害者の最後の言葉、現場となる部屋の異様さ、そして全体のムード、などお見事。

●お願いしていた本が届いた。
『Re-ClaM vol.4』
『Re-Clam eX vol.2』

『煙で描いた肖像画』 B・S・バリンジャー 創元推理文庫

●『煙で描いた肖像画』 B・S・バリンジャー 創元推理文庫 読了。

 十年前、豪奢な生活を求めて家出したクラッシー。その十年後、偶然彼女の写真を手に入れたダニー。彼はクラッシーの写真に魅了され、今の彼女を見つけようと決意する。

 行方不明の人間を探すタイプのミステリ。だがこの作品がよくある私立探偵小説とちょいと違うのは、探究につれて次第にダニーの妄想が膨らんでゆくところ。運命に翻弄された可哀想な彼女は、清純で真面目で努力家で……

 作品の構成として、現在のダニーと十年前のクラッシーと、それぞれの物語が各章毎に交互につづられる。そこで描かれる彼女の実像は、ダニーの妄想とはまるでかけ離れたものなのだが。

 (伏字)ると、結末の方向性は薄々予想できた。そりゃあこうなるだろう、と思う。ダニーとクラッシーの人物像をしっかり味わってからこの場面にたどり着くと、十分納得がいく。ただしそこから先、物語全体の結末は予想外であった。

「電人M」

光文社文庫江戸川乱歩全集『ぺてん師と空気男』から、「電人M」を読む。せっかく、メインの怪人である電人の他にタコ怪人という異形の者を出しておきながら、そいつらは場の賑やかしにしかなっていないようで。乱歩の意図がよく分からない。

 シリーズとしては異色な点がふたつある。二十面相盗賊団の公式目的が語られる。盗賊団が表向きの生業で金を稼いでいる描写が出てくる。それ以外は、まあいつもの少年探偵団ものである。

●お願いしていた本が届いた。
『盗まれた秘宝』 シーマアク 湘南探偵倶楽部
『仮面城秘話』 アンドレ・ド・ロルド 湘南探偵倶楽部

『ドイル傑作選II』 翔泳社

●『ドイル傑作選II』 翔泳社 読了。

 収録作中のベストは「大空の恐怖」であった。地球のはるか上空に未知の浮遊生物が棲んでいるという発想が気に入った。その昔まだラヴクラフトを喜んで読んでいた頃のときめきを思い出す。次点は「競売ナンバー二四九」。展開に目覚ましい捻りがあるわけではないが、そんな定型だからこその面白味がある。足音や声といった音の描写で読み手の想像をかき立てながら、じわじわと物語を盛り上げてゆく。

 他に気に入った作品を挙げておくと、「地球の悲鳴」はなんと地球が(伏字)というホラ咄。「分解機」もSFに分類されているが、まあホラ咄だろう。

 三部構成の第三部、「神秘の物語」に収録されている五編はどれも面白かった。特に「火あそび」で出現する物の意外さは呆れる。褒めているのだ。

●注文していた本が届いた。
人形佐七捕物帳 六』 横溝正史 春陽堂書店