累風庵閑日録

本と日常の徒然

『飛鳥高探偵小説選IV』 論創社

●『飛鳥高探偵小説選IV』 論創社 読了。

 メインの長編「青いリボンの誘惑」は、胸に染みる良作。複雑な人間関係をじっくりゆっくり解きほぐしてゆくうちに、様々な人達の様々な想いが浮かび上がってくる。

 他にいくつかコメントを付けるならばまずは「去り行く女」で、これはまるでアイリッシュである。「総合手配」は、こんなのも書くのかというストレートな犯罪小説。題名は書けない二作品は、それぞれ特異な動機と特異な犯行とが秀逸。

●書店に寄って本を買う。
『乱歩とモダン東京』 藤井淑禎 筑摩選書

●注文していた本が届いた。
『海老足男の復活』 V・ウィリアムズ 湘南探偵倶楽部
『電気殺人』 大下宇陀児 湘南探偵倶楽部
『サンチョパンザの名裁判』 セルバンテス 湘南探偵倶楽部

『寝台急行「昭和」行き』 関川夏央 中公文庫

●『寝台急行「昭和」行き』 関川夏央 中公文庫 読了。

 鉄道旅行を題材に、昭和時代の来し方に思いを馳せる紀行エッセイである。読んでいると私自身の幼少期の記憶が刺激されて、地元ローカル線の風景が浮かんでくる。遠い国鉄時代の、木造駅舎とディーゼルカーと、かろうじて現役だった貨物専用支線といったイメージである。

 風景の記憶にはその時代の空気感が伴い、それどころか当時の己の愚かさ幼さも思い出してしまう。読んでいて気持ちがざわつく本である。

 登場する土地も駅も路線も、国内ならばその多くに行ったことがあるし乗ったことがある。読みながら、数年前まで頻繁に出かけていた旅行のあれこれを思い出していた。これは近過去の記憶。

 読み手の経験や世代によって、感じ方が大きく変わってくる本であろう。

『修羅櫻』 桃源社

●『修羅櫻』 桃源社 読了。

 合作時代活劇である。共著者として背表紙に名を連ねているのは、江戸川乱歩角田喜久雄城昌幸、陣出達朗、村上元三の五人。ところが奥付に著者としてあるのは陣出達朗のみ。実際は合作ではなく陣出の単著で、他の共作者は名義貸しということだろうか。ネットには情報がほとんどなく、作品成立に関する詳細は分からない。もしかして、乱歩の随筆なんかには情報があるかもしれない。

 内容はどうにもこうにもベタな娯楽時代劇。これはこれで楽しい。十六年前、幕府の黄金運搬隊を盗賊団雲切五人衆が襲撃したが、積荷は水野忠邦一派に横取りされてしまった。ところが、奪った荷物の中身はただの石ころ。水野一派は、黄金運搬団の宰領岸波半兵衛が事情を知っていると見て彼を誘拐し、黄金の在処を白状するよう今に至るも日々攻め問うている。

 半兵衛の息子又四郎は、今や二十三歳の青年に成長した。失踪した父を救い出し、同時に水野の非を暴くことを自らに課せられた使命と心得て、事件の詳細を知ろうと雲切五人衆に接触を試みる。

●せっかくだから、雑誌『時代映画』に掲載された、高岩肇の手になる「修羅櫻」脚本も読んでみた。展開が刈り込まれて整理されている。その一方で情報が増えて完成度が増したエピソードもある。なかなかの出来栄えである。

『死のチェックメイト』 E・C・R・ロラック 長崎出版

●『死のチェックメイト』 E・C・R・ロラック 長崎出版 読了。

 事件も展開も地味。登場人物達の個性で読ませる作品である。関係者によるディスカッションが何度か行われるが、ごりごりにロジックで真相を追及するのではなく、事件にまつわる四方山話といったところ。

 結末にまでたどり着き、作者のやりたかったことが分かるとちょいと感心した。犯行当時の絵柄が面白いし、詳しくは書かないが別の側面もよくできている。あまり感銘を受けないミステリで見受けられる(伏字)も、ここまで文章を積み重ねられると十分に納得できる。作者の丁寧な書きっぷりに好感が持てる。

●注文していた本が届いた。
『浮出た血染の手形』 三津木春影 盛林堂ミステリアス文庫
 副題に「三津木春影翻案探偵小説集」とある。

『十三の階段』 山田風太郎 出版芸術社

●『十三の階段』 山田風太郎 出版芸術社 読了。

 山田風太郎コレクションの第三巻である。風太郎が関わった連作ミステリを全て収録したという。本書はまず第一に、こんな珍品の数々を読めることに大きな意義がある。

 収録作中のベストは「怪盗七面相」。同じ題材を扱った一話完結型で、連作というよりは競作というべきか。こういった形式だと全体の構成を綺麗に整える必要性が薄れるから、各作家の短編を個別に楽しめる。そして最終話「諸行無常の巻」を担当した山田風太郎の手腕がお見事。この結末の付け方には感心した。

 次点は「十三の階段」で、連作にしては割と一貫した構成が上出来。「地獄篇」を担当した山田風太郎の筆がすさまじいのも読み所。事件は派手で魅力的だし、犯人設定にもきちんと意外性を持たせている。

「悪霊物語」では発端編を担当した乱歩の世界観が、おまけの「私のつけ句」も含めて突出している。

 ジュブナイル連作「夜の皇太子」は、他の収録作とはちと性質が違う。最初から、大人向け作品とは期待するものが違うのだ。構成の破天荒さが欠点にならず、むしろハチャメチャな展開こそが面白味だったりする。夜の皇太子と夜の女王との闘争に巻き込まれた、主人公雪彦君の運命やいかに。これは面白い。

 ちと心細い出来栄えの作品も混じっていて、読み始めたときにはどうしたもんかと先が思いやられたが、読了してみると全く満足である。

●税務署から所得税の還付金が振り込まれた。臨時収入だと錯覚しそうになるが、そうではない。払い過ぎた税金が戻ったので、つまりはマイナスがゼロになっただけである。

『息子殺し』 R・ウィンザー カッパノベルス

●『息子殺し』 R・ウィンザー カッパノベルス 読了。

 原題の直訳は「三つの殺人動機」だそうで。作者の力点は、動機を含めた人間の情念を書くことにあるのだろうか。結末で出来上がった絵柄には関係者の様々な想いが絡みあっていて、小説を読み終えた満足感はある。

 とはいうものの、この作品は人間心理を追求したサスペンスではない。いかにもそれらしい名探偵が活躍する古典的なミステリである。脇役だと思っていた人達が、途中からにわかに重要性を帯びてくる展開が意外。事件の背景も意外だが、それを探偵が把握するまでの流れが(伏字)というのは、あまり感銘を受けなかった。

 こんな作品が七十年代に書かれたってえのが、刊行当時はひとつの読みどころであっただろう。今読むとあまり関係ないのだが。この作者の他の既訳作品二冊は入手済みなので、いずれ読む。

●同人誌『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』の第二刷が出来。早速通販を始めて、この日記を公開する時点で在庫冊数が一桁である。ありがたいことであるが、どうしてそんなに、と不思議でもある。

『藤原宰太郎探偵小説選』 論創社

●『藤原宰太郎探偵小説選』 論創社 読了。

 熱意先行型のマニアさんが書いた作品には、題材を詰め込み過ぎてページ数とのバランスが取れなくなっている例がちょいちょい見受けられる。ところがこの作者はそうではない。ページ数に応じた過不足のない題材でもって、そつなく分かりやすい作品をものしてみせる。名作や傑作というのではないが、水準を保ちつつ娯楽作品を供給するプロフェッショナルの技量である。なんと上手いことかと感心する。

 収録作はどれも、特に欠点を感じずいい意味で普通の作品であった。以下、いくつか気に入った作品にコメントを付けておく。「日光浴の殺人」はシンプルな内容と探偵役の造形とが読みどころ。デブでオールドミスでベテラン記者の花子が活き活きと描かれている。

「ミニ・ドレスの女」は、これも登場人物がいい感じ。キーパーソンのひとりであるチンピラの赤尾竜二は、そのあまりに自由な生き方に事件を捜査する刑事が思わず羨んでしまう。「血塗られた”112”」は、適度に錯綜した謎がよく整理された解決に落ち着く。手際の良さがうかがえる佳品である。

●注文していた本が届いた。
人形佐七捕物帳 八』 横溝正史 春陽堂書店

『怪盗ニック全仕事1』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『怪盗ニック全仕事1』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。

 こういう、明るく軽快な作品集は久しぶり。さくさく読めて上々である。「真鍮の文字を盗め」は作りすぎという気がしないでもないが、出来上がった絵柄が上手く納まっている。「邪悪な劇場切符を盗め」と「シルヴァー湖の怪獣を盗め」とは、冒頭の謎が魅力的。

「弱小球団を盗め」は展開に緊迫感があるし、多くの伏線が嬉しいし、最後のオチが秀逸。「笑うライオンを盗め」は伏線がズバリ決まって収録作中のベスト。

●今年から創元推理文庫のニック全仕事を読み始める。年二冊読むとして、三年計画である。たぶん三十年ほど前に読んだポケミスの『怪盗ニック登場』は、今となってはまるで覚えていない。シリーズをまとめて読むのはほぼ初めてに近いが、一冊読んでみてだいたいの味わいは分かった。

●同人誌は、なんとまあ発売当日に完売した。ありがといことであるが、驚きの方が大きい。ただちに増刷をかけた。こんなに反響があったのも、某氏に描いていただいたあの表紙絵のおかげである。

同人誌『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』

●何人ものお方にご協力いただいた同人誌『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』が完成した。内容は題名の通りで、過去に開催した横溝正史読書会のレポートである。想定読者を対象作品読了済みの人間に限定して、これまた題名にあるようにネタバレ全開で書いている。

 通販を始めたが、この日記を公開する時点で完売寸前である。まっこと、ありがたいことで。状況を見極めて、場合によっては増刷も検討する。

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『岩田賛探偵小説選』 論創社

●『岩田賛探偵小説選』 論創社 読了。

 探偵が、結末で初めて読者に示される手がかりに基いて真相を見抜く展開がやけに多い。ページ数の都合があるだろうし、戦後すぐのこの時代だったら普通の書き方だったのかもしれんが、後出しの作品が続くと読んでいて冷静になる。

 被害者、あるいは共犯ではない第三者が、犯人の思惑通りに都合よく動くことを前提にした犯罪計画がやけに多い。事の成否を他人に依存する計画だなんて。他人がそう都合よく行動してくれるわけがないだろう。ってなことを思ってしまう作品が続くと、読んでいて冷静になる。

 収録作品の数は多いが、コメントしたいと思えるものは少ない。「無限信号事件」と「鎮魂曲殺人事件」とは、犯行手段がちょいと面白い。特に後者に使われたネタは、根底にある思想が好み。上手く使えば長編を支えることができそう。

「絢子の幻覚」と「日時計の家」とは、結末で見えてくる絵柄に不気味さがあって悪くない。「歌を唄ふ質札」は、ここまで突き抜けて馬(伏字)しい真相はいっそ天晴である。

●お願いしている本が届いた。
『佐左木俊郎探偵小説選II』 論創社
 論創ミステリ叢書を一冊読んで、論創ミステリ叢書を一冊買う。

●注文していた本が届いた。
『ローランド屋敷の秘密』 M・R・ラインハート ヒラヤマ探偵文庫