累風庵閑日録

本と日常の徒然

2022-01-01から1年間の記事一覧

『幽霊の2/3』 H・マクロイ 創元推理文庫

●『幽霊の2/3』 H・マクロイ 創元推理文庫 読了。 事件そのものはパーティーでの毒殺で、よくあるといえばよくある趣向である。だが、途中で作品の真のテーマが見えてくると俄然面白くなった。具体的なことは書かないが、実はこの作品はこういう話なのだ…

『サムソンの犯罪』 鮎川哲也 徳間文庫

●『サムソンの犯罪』 鮎川哲也 徳間文庫 読了。 三番館シリーズの二冊目である。なにしろ鮎川哲也なので、どうしても事前の期待値が高くなる。期待が高すぎると、実際に読んでみてううむ……となる作品がちょいちょいある。困ったことである。特に、犯罪計画の…

『アリバイ』 A・クリスティー原作/M・モートン脚本 原書房

●『アリバイ』 A・クリスティー原作/M・モートン脚本 原書房 読了。 国書刊行会から出始めた奇想天外の本棚のシリーズは、できるだけ早いタイミングで読んでいこうと思う。そこでまずは準備として、以前原書房から出て三巻で途絶した、初代奇想天外の本棚…

『怪盗ニック全仕事6』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『怪盗ニック全仕事6』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。 相変わらずこのシリーズは伏線沢山で嬉しい。特に「浴室の体重計を盗め」、「空っぽのペイント缶を盗め」、「最高においしいアップル・パイを盗め」の三編は、伏線そのものの意外さが上々。たと…

『平和を愛したスパイ』 D・E・ウェストレイク 論創社

●『平和を愛したスパイ』 D・E・ウェストレイク 論創社 読了。 平和主義団体のリーダーが過激派テロリストに間違われたことから、テロ組織への潜入捜査をする羽目に追い込まれる。シリアスにもなりえる題材だが、実際はゴキゲンなクライム・コメディである…

『不死鳥と鏡』 A・デイヴィッドスン 論創社

●『不死鳥と鏡』 A・デイヴィッドスン 論創社 読了。 魔法やモンスターが実在する架空の中世ヨーロッパ世界を舞台に、魔術師ヴァージルの冒険を描く。巻末解説によれば作者が本当に書きたかった作品だそうで。実際の歴史や神話の題材を大量に盛り込んで、そ…

『子不語の夢』 浜田雄介編 皓星社

●『子不語の夢』 浜田雄介編 皓星社 読了。 副題は「江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集」である。マニアさんや研究者にとっては貴重な情報の宝庫なのだろう。私は上辺をなぞるだけの乱歩ファンなので、するすると読み進めた。それでも眼をページの上にただ滑ら…

『水平線の男』 H・ユースティス 創元推理文庫

●『水平線の男』 H・ユースティス 創元推理文庫 読了。 どうやら創元推理文庫版にはかなり大きな誤訳があるらしい。別冊宝石の「地平線の男」は大丈夫らしいが。いつもなら事前情報を極力遮断して臨むのだが、今回は例外としてその辺を検索してみた。で、誤…

『続・相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫

●『続・相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫 読了。 なんともそつなく書かれた通俗娯楽時代劇。主人公は同心の相良一平で、目明かしの太鼓松とその手下合点庄次とが子分格である。馴染みの川魚料理屋菊水の、看板娘お利江が相良一平にすっかりホの字にレの字…

『カマフォード村の哀惜』 E・ピーターズ 長崎出版

●『カマフォード村の哀惜』 E・ピーターズ 長崎出版 読了。 殺人をメインの題材にしているから、ミステリではある。だが、作者が書きたかったのはそれだけではないようだ。作中で扱われているのは、少年の成長、親子の絆、舞台となった村の住人達の様々な想…

偏愛横溝短編を語ろう

●多くの横溝正史ファンのご協力をいただいて、同人誌『偏愛横溝短編を語ろう』をまとめた。八人の執筆者が横溝正史の短編小説のなかからいくつかを採り上げ、その魅力を語る本である。採用基準は一般的な評価としての傑作かどうかに関係なく、ただただ自分が…

不死鳥と鏡

●定期でお願いしている本が届いた。『不死鳥と鏡』 A・デイヴィッドスン 論創社『平和を愛したスパイ』 D・E・ウェストレイク 論創社 ●今月の総括。買った本:六冊読んだ本:十冊

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十八回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十八回。今回からジェラールシリーズの続編、「ジエラール旅團長の冒險録」を読み始める。ただ、どうも気分が乗らず、半分の四編だけを読んで打ち止めとする。残りの四編は来月読む。 ジェラールは、回…

『マローン御難』 C・ライス ポケミス

●『マローン御難』 C・ライス ポケミス 読了。 冒頭二ページで死体が転がり、そこから物語はフルスピードで走り始める。殺人事件と誘拐事件とが、それぞれ時々刻々に情勢を変えながら複雑にからみ合う。そのうえさらに、主に裏社会陣営が血眼で探す重要書類…

『川野京輔探偵小説選III』 論創社

●『川野京輔探偵小説選III』 論創社 読了。 一巻二巻を読んで分かっていたことだが、この作家は残念ながら好みから外れている。コメントしたい作品は多くない。「手くせの悪い夫」は、これほどまでに奇天烈さが突き抜けているといっそ笑える。「二等寝台…

『ヨーク公階段の謎』 H・ウェイド 論創社

●『ヨーク公階段の謎』 H・ウェイド 論創社 読了。 序盤は、そもそも事件かどうかが問題になる。捜査を進めていくうちに別の問題が浮上し、やがて……と焦点が次々に変わっていって中だるみしない。登場人物に人間味があるのも面白さの一要素である。主人公プ…

『悪魔の百唇譜』 横溝正史 角川文庫

●『悪魔の百唇譜』 横溝正史 角川文庫 読了。 特に理由もなく、何度目かの再読。前回読んだのは七年前で、そのときは原形短編「百唇譜」との読み比べをやった。長編化に際して情報を膨らませ深化させる書きっぷりにちょいと感心したものだ。 以下、当時のブ…

『湖畔 ハムレット』 久生十蘭 講談社文芸文庫

●『湖畔 ハムレット』 久生十蘭 講談社文芸文庫 読了。 「久生十蘭作品集」の副題がある。ううむ、これはちょっと。今はどうも気力がないし、この内容この文章についてあれこれ語るのは私の手に余る。ただ一言、凄い、とだけ書いておく。 ●来年から、河出文…

『闇の展覧会-霧』 K・マッコーリー編 ハヤカワ文庫

●『闇の展覧会-霧』 K・マッコーリー編 ハヤカワ文庫 読了。 シリーズ三冊目の本書の目玉は、質量ともにスティーヴン・キングの長編「霧」である。キングって過去に何冊か読んでどうもピンとこなかったのだが、この作品はゴキゲンな恐怖小説であった。題名…

『殺人への扉』 E・デイリー 長崎出版

●『殺人への扉』 E・デイリー 長崎出版 読了。 特に読みづらくもなく、かといって突出した美点も感じなかった。犯人は、まあそうなるだろうなという人物だし。ただ、結末で見えてくる犯人の凄絶な境遇は記憶に残る。 物語が進展した後で、あの部分が今の状…

『マン島の黄金』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『マン島の黄金』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 拾遺集だから統一感がなくて、おかげで様々な味の作品を読めて楽しい。「崖っぷち」は不気味な秀作。どこがどう不気味なのかは、後半の展開にかかわるので書かない。「クリスマスの冒険」はポア…

『日本庭園の秘密』 E・クイーン ハヤカワ文庫

●『日本庭園の秘密』 E・クイーン ハヤカワ文庫 読了。 クイーンがロマンティック・サスペンスを書いたらこうなる、といった作品。私の好みではないメロドラマ要素が多分に含まれていて、読んでいてちょいとしんどかった。 某キーパーソンの造形がほとんど…

『ブルー・ハンマー』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫

●『ブルー・ハンマー』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫 読了。 リュウ・アーチャーシリーズの最終作。展開は陰鬱で、登場人物達は悩みや問題を抱えていて、味わいはいつものロスマクである。多くの人々が複雑にからみ合った外連味のある真相も、これまたいつ…

『奇想の復活』 鮎川哲也/島田荘司編 立風書房

●『奇想の復活』 鮎川哲也/島田荘司編 立風書房 読了。 「ミステリーの愉しみ」の第五巻である。本書には好みから遠く隔たった作品がちょいちょい含まれていて、ページをめくる手が止まりがちであった。読了するのに予想以上に日数がかかってしまった。 個…

新シャーロック・ホームズの冒険

●図書館から借りてきたノンフィクションを読んでいたのだが、飽きた。こいつはもう中断して、返却してしまうことにする。明日から別の本を読み始める。そっちはそっちで八百ページの大部なので、しばらく読書日記は更新できないだろう。 ●書店に寄って本を買…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十七回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十七回。今回から第六巻に取りかかり、「ジエラール旅團長の武勇傳」を読んだ。今はすっかり老いてしまったジェラールが、若かりし頃ナポレオンに仕えて縦横無尽に欧州を馳せ巡り、数々の武勲を立てた思…

『ようこそウェストエンドの悲喜劇へ』 P・ブランチ 論創社

●『ようこそウェストエンドの悲喜劇へ』 P・ブランチ 論創社 読了。 舞台は、今にも潰れそうな雑誌の編集部。ある主要メンバーが狂言自殺を企てたことがきっかけで、てんやわんやの大騒動が持ち上がる。関係者それぞれの勝手な思惑と誰にも予期できない偶発…

『二百万ドルの死者』 E・クイーン ハヤカワ文庫

●『二百万ドルの死者』 E・クイーン ハヤカワ文庫 読了。 クイーン名義であるが、実際は別人が書いたというのは周知であろう。実作者がクイーンであろうがなかろうが、やけに面白いのだこれが。内容を一言で表すなら、行方不明になっている戦争の英雄を探し…

『黒の血統』 三橋一夫 出版芸術社

●『黒の血統』 三橋一夫 出版芸術社 読了。 ふしぎ小説集成の第三巻、最終刊である。私の苦手な人情咄がちょいちょい含まれていて、その点はしんどかった。気に入った作品は、殺人犯を捜すまっとうなミステリのようでいながら頭の天辺に生えた耳が題材だとい…

『ワトスンの選択』 G・ミッチェル 長崎出版

●『ワトスンの選択』 G・ミッチェル 長崎出版 読了。 読者の予想をはぐらかすようなずらしが奇妙な味わいを醸し出す。何かの伏線かと思える描写が結局なんでもなかったり。特に某人物の(伏字)なんて異色すぎる職業が、結局物語に関係なかったのはなんだっ…