●三月の確定申告でなんじゃかんじゃとあって、まとまった額の還付金が戻ってきた。なんと六桁前半に達する結構な額で、その一部を使って温泉に行ってこましたろと思う。仕事が忙しいのは相変わらずなので、月イチくらいで非日常に身を置いて、英気を養わんことにはやっとれんわ、と思う次第である。
●瞬間的に裕福なので贅沢にも新幹線に乗り、KYの街へ突っ走る。先月の飲み仲間と会って、またもや昼酒をぶちかます。
●これから先乗るのは地方ローカル線で本数が少ない。待ち時間があるので駅ビルの本屋で時間をつぶし、ついでに 『古書ミステリー倶楽部II』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 を買う。
●いい心持ちに酔いを発して電車に乗り込み、居眠りしたりぼんやり外を眺めたり。若葉の淡い緑が眼に優しい。AWの街からバスに乗り、HY温泉バス停で降りる。いずこも同じ寂れかけた温泉街をとぼとぼと歩く。空には雲が低く風は薄ら寒く、山が迫る川沿いの細道は、樹々が覆い被さるように繁って薄暗い。
細長い温泉街のどんづまりまで、十五分ほど歩いて今晩の宿にたどり着く。途中ずっと道が沿っていたY川を見下ろす部屋に落ち着いて外を眺めれば、せせらぎの音高く、対岸の山には淡緑色が連なり、薄曇りは薄曇りなりに、しっとりと潤いを帯びた佳景に見えてくるから呑気なものである。
●一息いれて早速風呂に入る。非循環掛け流しで適温の湯にずっぷりと身を浸し、しばし憂世を忘れる。そして風呂から上がるともう何もすることはない。あとはぼんやりと退屈するだけである。なんたる贅沢な時間か、と思う。
●晩飯は宿泊費からすると少々心細い内容で、こいつは残念。可もなく不可もないありきたりの水準にすら達していない。食事に満足できなかったせいで、結局この宿の印象はあまりいいものではなかった。