累風庵閑日録

本と日常の徒然

『吸血鬼カーミラ』 レ・ファニュ 創元推理文庫

●『吸血鬼カーミラ』 レ・ファニュ 創元推理文庫 読了。

面白かった。十九世紀、あるいはもっと古い時代の、アイルランド、オランダ、オーストリアなどを舞台にした怪奇小説集。その味わいは古雅にして素朴。情景描写が美しい。現代日本からは時間も空間も常識も遠く隔たった物語世界に遊び、しばし憂世を忘れる。

冒頭「白い手の怪」が秀逸。題名の通り白い手が屋敷に現れて住人を脅かす。ごく短い作品なだけに、脇筋もなくシンプルな怪異譚である。表題作も上出来。読者には最初からカーミラの正体が分かっているわけだが、後半になって登場人物達にもその正体が見えてくる描写には、ほほう、と思った。