累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ボアゴベイ集』 博文館

●『ボアゴベイ集』 博文館 読了。

世界探偵小説全集の第四巻である。収録作は長編「海底の黄金」の一編のみ。宝石泥棒の嫌疑を掛けられた知人を救うため、また同時に知人の妹への愛のアピールのため、主人公とその友人が力を合わせて活躍する。果たして主人公は件の妹と首尾よく結婚できるか。

悪漢は極めて分かりやすい。真相はいかにも時代を感じさせる(伏字)ネタである。主人公もその友人も、ありあまる金があって労働をせず、賭博に観劇にその他の娯楽に日々を費やす呑気な遊民である。そのため、どことなく「いい気なもんだぜ感」がつきまとうのはたぶん庶民(私)のひがみであろう。題名となっている海底の黄金のエピソードがメインの物語と分離して、なんだか途中から別の話になっている。

一言でいうと通俗サスペンス・メロドラマで、下世話な面白さはあるが、四百ページ超を一気に読ませるほどの魅力はない。休み休み読んで四日もかかってしまった。ボアゴベイという人、現在では忘れられた作家になっているのが頷ける気がする。一点だけ、世俗のルールを超越したヴェルヴァン侯爵夫人のキャラクターがちょっと面白かった。