早速資料を請求すると、奇妙なことが判明した。「霧の中の女」前編が載っているはずの「週刊東京」三巻二号は所蔵されておらず、三巻一号の次が三巻三号となっている。ところが通巻号の表示を確認すると、前者が六十九号、後者が七十号と続き番になっている。どうなっておるのか。
三巻一号を出してもらって実物を確認すると、目次ページには「霧の中の女」の記載がない。ところがなんと、中身を覗くと「霧~」の前編がしれっと掲載されているではないか。そういうことなら、結果オーライでコピーさせていただく。もう一点、「洞の中の女」の後編もコピーを確保。ありがたいことである。
●こんなずっこけがあるから、一次資料にあたるのが大事なのである。そもそも「週刊東京」三巻一号は国会図書館に所蔵されているのだ。でも詳細を検索すると、目次データにはやはり「霧の中の女」が載っていない。要するに、最初からネット経由で国会図書館所蔵のコピーを入手できる状況にあったが、そのことは実際に現地へ出向いて現物を確認しないと分からなかったのである。
余談だが、「洞の中の女」のタイトルに付されているルビが、「うつろのなかのおんな」になっている。これにはあれっと思った。今までずっと、「ほらのなかのおんな」だと思っていたよ。これも現物にあたらないと分からなかった点である。
●日本近代文学館での目的はもう一点ある。昭和十四年創刊の雑誌「奇譚」の一巻一号から、横溝正史の「髑髏検校」連載第一回をコピーするのだ。
そのココロはこうである。先日、『不知火奉行』 横溝正史 同光社を入手した。函欠けで状態が悪かったおかげで手頃な値段であった。表題作は出版芸術社版に収録されているから、まあそれでいい。ポイントは同時収録の「髑髏検校」である。実際は「どくろ検校」というひらがな表記になっているが。
ここでもう一冊、棚から引っ張り出してくる。桃源社版の『髑髏検校』である。表題作に関して、巻末解説に興味深い記述があるので引用する。
============ここから引用============
単行書は、「左一平捕物帳」(昭和十七年一月、奥川書房刊)があり、同書中の後半が本編である。他に「不知火奉行」(昭和三十二年九月、同光社刊)の後半にも収められているが、改作である。本書には奥川版を使用した。
============引用ここまで============
このように、同光社版に関して「髑髏検校」のテキストの異同が示唆されているのである。気になるではないか。実際はそんな、気になっていること自体すっかり忘れていたけれども。
今回たまたま同光社版を入手したことをきっかけに、にわかにテキストの異同が気になりだし、せっかくだから初出版も確認してみようと思ったのである。
●首尾よくコピーを入手して渋谷に戻り、原宿へ移動する。太田記念美術館で開催されている、『江戸妖怪大図鑑 第三部 妖術使い』を鑑賞するのである。浮世絵に表された妖術使い達は、相馬の古内裏の滝夜叉姫、自来也と大蛇丸と綱手姫、玉藻前といった有名どころから知らないキャラクターまで、多彩な題材で観ていて楽しい。地下の売店で、斧琴菊の手ぬぐいを衝動買い。
●次に池袋に移動し、西武のLIBROで『岡田鯱彦探偵小説選II』 論創社を購入。論創海外の二冊も出ていたけど、荷物になるので次回に後回しにする。
●さて、今日の移動はそろそろ終わりである。今晩池袋で飲み会があるので、それまで時間を潰さなければならない。曇り空で涼しいが、あちこち歩き回ったので汗ばんでいる。西武の屋上で風に吹かれて涼みながら、休息して時間を潰す。
●今晩はトータル四人の少人数飲み会である。駅前の大衆居酒屋に腰を据えて、さてあとはもうひたすら横溝話。形のある収穫は同人誌一冊と某資料のコピー。ありがとうございます。形のない収穫としては、会話の内容そのものがそうだ。今後の横溝ファン活動に関して重要な示唆を多々得られた。……ような気がする。終始酔っていたのであまり覚えていないのが残念。
話題に上ったキーワードを思い出すままに順不同で挙げると、三号四号を見つけたい、同名の印刷会社は実在している、事実の羅列だけでは論文にならない、書いている人間は楽しいけど読む側はつまらない、たたき台になればいい、作業分担をしなければ長続きしない、金田一ものはすべて初出が欲しい、しかもコピーではなく現物雑誌が、下駄で歩くのは足が痛い、仮面を付けると暑い、荷物は預かってもらえる、Aホテルは馬鹿高い、編集者の経験は大きい、江戸文芸の影響、などなどなど。
宴もたけなわではございますが、終電の時刻が迫ってきたのでお開きにする。お疲れさまでした。大変有意義でかつ面白かった。またやりましょう。