累風庵閑日録

本と日常の徒然

『支那扇の女』 横溝正史 角川文庫

●『支那扇の女』 横溝正史 角川文庫 読了。

表題作は、解決直前まではなかなか面白い。原型版よりもディテイルが書き込まれているし、新たな事件が発生して展開が複雑になり、物語が一層魅力的になっている。だが、残念ながら結末の展開があまりにも駆け足で、えっ、これだけ?と思う。

同時収録の「女の決闘」は、ええと、特にコメントはなし。これも解決があっけなくて、説明だけ。

●ここでふっと思い出した。そういえば「支那扇の女」には、短編版の前に別題の原型版があったんだっけ。というわけで、角川文庫の『ペルシャ猫を抱く女』から表題作を読む。

●「支那扇の女」の短編版と長編版、そして「ペルシャ猫を抱く女」と、三作品を暴れ読みした訳だが、最後の「ペルシャ~」が一番面白かった。三作品に共通の、絵に関するネタは極めてシンプルである。そのため殺人ミステリの土台にするには少々弱く、色々他の要素で補わないといけない。追加要素を十分に書き込むためには、ある程度のページ数も必要になってくる。「支那扇の女」の原型版を読んだ段階ではそこそこ満足していたのだが、今日になってその弱さが見えてきた。結局、綺譚風に仕立てた「ペルシャ猫を抱く女」が、このネタの効果を最もよく発揮できているようだ。

もう一点、戦後すぐの時期の短編群は、正史の意気が極めて軒昂であったためか、ある種の凄味のようなものを漂わせている。昭和二十一年発表の「ペルシャ~」もその例に漏れず、語り口に引き込まれる。