累風庵閑日録

本と日常の徒然

三井記念美術館

●東京の三井記念美術館で開催されている「東山御物の美-足利将軍家の至宝-」を見学に行く。会場に向かうエレベーターでたまたま乗り合わせた、上品な奥様風の老女、見ず知らずの私に向かって切符は持っているのかと訊くのでこれから買うのだと答えると、複数人対応の招待券か何か持っているらしく、お前の分の切符は出せるからついてこいとおっしゃる。ありがたく頂くことにする。

室町時代、時の将軍は当時の最先端国家であった中国からの伝来品を「唐物」と称して珍重した。特にその道を好んだのが八代将軍義政で。就任当初は将軍の権威を取り戻そうと奔走したが、やがて己の無力さを思い知らされて厭世観にとりつかれたのか、政務を疎んじ専ら数寄の道に惑溺するようになる。今日の展示を観ると、時代の流れに棹差そうとして抗しえなかった青年将軍の無念さに思いを馳せてしまう。

幕府滅亡後に散逸したそれら名宝は、やがて東山御物として数寄者の間で重んじられるようになった。そればかりでなく、その後の日本人の美的感覚の規範ともなったのだそうな。有名人がいいね!と言ったら皆がいいね!と言いだす、そんな日本人の心性はまことに微笑ましい。

国宝の茶碗「油滴天目」をはじめ、国宝や重要文化財の陶器、絵画をいろいろ観てきた。眼福である。もちろん私も、国宝指定といういいね!に素直につられていいね!とやらかしてきたのである。