累風庵閑日録

本と日常の徒然

『楠田匡介名作選』 河出文庫

●年が明けてから大晦日の日記を更新するのは間が抜けているが、かまわず書く。

●独り部屋にこもって年を越すのはちょいとアレなので、「18きっぷ」を使って出かけることにする。なんにも用事はないけれど、電車に乗って米沢まで行ってこようと思う。まあどっちみち、旅先のビジネスホテルで独り部屋にこもって年を越す訳だが。

●朝四時半に起きてシャワーと身支度、六時の電車で活動を開始する。これがあるから、昨夜の忘年会を後ろ髪を引かれる思いで、一次会で離脱したのだ。これがなければ朝までだってお付き合いしたものを。

宇都宮、黒磯、郡山と乗り継ぎ、福島から最終行程になる。電車が奥羽山脈に分け入り、峠を越すと雪がにわかに激しくなる。車窓は常緑樹のくすんだ緑と、雪に煙る落葉樹の灰色と、地面に厚く積もった雪の白との三色の世界となる。

●電車内で、『楠田匡介名作選』 河出文庫 をようやく読了。

中盤になって、ようやくこの本の”読み方”が見えてきた。「本格ミステリコレクション」の器に入っているけれども、これは脱獄のスリルを主な題材にしたサスペンス・ミステリ集なのだ。

器や枠組みがどうあれ、面白ければそれでいいのだが、残念ながら私の趣味からは少々ずれていた。犯罪の真相で、共犯者がいるってのはもともとあまり好みではない。アリバイトリックやなんか、何だってできてしまうからね。だが脱獄というのは共犯者の存在が前提らしい。この点がいまいち内容に乗れなかった。それに、全体的なトーンが湿っぽくて、読んでいて疲れる。

だが、ここで大事なこと。とにもかくにも、楠田匡介の作品がまとまって一冊の本となって刊行された事実を言祝いでおきたい。この点は素晴らしいことである。

●米沢着が二時前。とりあえず今晩のホテルに問い合わせる。チェックインが三時からなのは承知しているが、早めにそっちに行ってロビーで待たせてもらってかまわないか?

結果はOKとのことだったので、早速向かうことにする。だがその前に、近くのショッピングモールで晩の総菜とアルコールとを仕入れる。今晩の籠城の準備である。足下が悪いし雪はごんごん降っているしで、夜はとても街に飲みに出かける気がしない。

●米沢は想像よりはるかにこぢんまりとして、高い建物があまりない、空の広い街であった。繁華街があるのは駅の西側らしく、ホテルのある東側はさらに何もない。こんな天候で出歩いてもしょうがないし、チェックインして一眠りした後は、おとなしく本を読むことにする。旅の途中で楠田匡介を読了する事を見込してもう一冊持参した、光文社文庫の江戸川乱歩全集である。

●第十七巻『化人幻戯』から、収録のジュブナイル「鉄塔の怪人」を七割ほど読んだところで夕方になった。ホテルの大浴場が開く時刻である。じっくり暖まってから、晩酌開始。ポメラで今日の日記を書きながら、飲みかつ喰らう。「蛍烏賊の魚醤干し」というやつが、やけに旨くて日本酒に合う。

●だらだら起きていてもしょうがない。テレビなんざ一秒だって観る気もしない。さっさと寝てしまうことにする。ところで、寝る前に窓から外を覗くと、雪が激しくなって道路が真っ白になっているのだが。明日ちゃんと電車が動くだろうか。

●ここで日記はいったん一区切り。ここから先は一年の総括を書く。

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●今年はまったく激動の年であった。人生で何度あるかというほど、環境が大きく変わった。

●春頃は仕事が忙しすぎてプライベートがめちゃくちゃになり、本もろくに読めなかったが、夏以降盛り返して大いに読書がはかどった。というわけで一年の読書総括。
今年書った本:九十八冊
今年読んだ本:八十七冊

●旅行は、京都、北斗星の乗り納めで北海道、倉敷という大ネタが三回。中ネタとしては彦根城犬山城の国宝城見学と、掛川城の御殿建築見学、新幹線開通前の金沢がある。泊まりがけの温泉は三回行けた。

●博物館・美術館巡りが半ば趣味のようになってきたのも今年からである。