累風庵閑日録

本と日常の徒然

『六つの奇妙なもの』 C・S・J・スプリッグ 論創社

●『六つの奇妙なもの』 C・S・J・スプリッグ 論創社 読了。

翻訳小説では時折、同じ個所を何度か読まないと文意が取れない作品に出くわす。だが本書はそういう引っ掛かりが一切なかった。とにかく読みやすくて分かりやすい。原文が素直で訳文の質が確か、ということか。凝りすぎた表現がなく、人物像も舞台背景も、個々のエピソードですらありがちなテンプレートとと紙一重である。器の小さい憎まれ役はきちんと憎たらしく、幼く愚かな者はきちんと幼稚で、その描写は極めて分かりやすい。特筆すべきは黒幕の人物像で、終盤で明らかになる造形は剃刀の切れ味と鉈の破壊力を併せ持っている。

つまらないわけではない。先の展開が見えず、ぐいぐい読まされてしまう面白さがある。個々のパーツは型通りなのに作品全体が型通りでないのは、パーツを選んで全体を構成する、その選び方と並べ方が抜群だからである。殺人が起きてさあて犯人は?というだけではなく、一体全体裏で何が起きているのか?という興味がある。題名にもなっている「六つの奇妙なもの」が発見されるシーンでは、裏で何が?という興味が俄然掻き立てられる。この作家の他の作品も読みたい。