累風庵閑日録

本と日常の徒然

相撲の仇討

●どうもなんだかがっくりきて、しっかり本を読む気にならない。だがせっかくの日曜日、何もしないのはもったいないので、短編小説を一つだけでも読むことにした。朝顔金太捕物帳の第二話「相撲の仇討」である。

比較対象は出版芸術社の『江戸名所図絵』に収録されている佐七版「相撲の仇討」。基本的には同じ物語だが、佐七が調べて歩く場所の順番が変わっている。金太版では天津風部屋を出た後、柳橋の牡丹⇒白藤の家という順番なのに対し、佐七版では白藤の家⇒柳橋の牡丹、となっている。この変更に伴い、それぞれの場所で得られる情報も変わっている。

その他の変更点に関しては、創元推理倶楽部秋田分科会さんの『定本人形佐七読本』ですでに考察されているので、ここでは省略。上記の順番変更は、小糸の人物設定の変更に関わるものだろうか。

細かなところでは、佐七版の方で形容詞や指示代名詞をちょいちょい削ってあり、多少シンプルな文章になっている。その反面、佐七にベタ惚れのお粂と、その光景に当てられる辰と豆六、というお馴染みの要素がしっかり描かれている。

ついでに、分かる範囲で佐七版のバージョン違いを見てみた。古くは同光社磯部書房の『新作捕物選 横溝正史篇 人形佐七捕物文庫』に収録されているもの。刊行は昭和二十八年である。新しくは金鈴社の新編人形佐七捕物文庫第一巻『鶴の千番』に収録されているもの。刊行は昭和四十七年である。ただし、昭和四十三年刊行の元版があるようだ。両者の違いは、金鈴社版で主に台詞の部分が多少加筆されている程度である。

やはりこうやって比べ読みするのは時間も手間もかかる。

●去年開催された「巡・金田一耕助の小径」の実行委員会さんから、学会誌が送られてきた。ぱらぱら読み返してみて、あらためて学会のレベルの高さを思う。