●『悪魔の百唇譜』 横溝正史 角川文庫 読了。
終盤になって唐突に(伏字)など、やや解決を急いだ感がある。文庫版で二百四十ページでもまだ、ページ数が足りないのかもしれない。そんな、気になる点はあるけれど、読んだ感想としてはすこぶる面白かった。
原型版との比較がとにかく面白いのだ。あの箇所の描写がこう変わったのか、という興味で読める。原型版では説明不足どころかほぼ記述がなかった項目がたくさんあるが、本書では丁寧に描写が積み重ねられていて、情報量が大幅に増えている。読者が想像するしかなかった関係者の様々な行動が、明らかになるのを読む快感がある。
そしてただ明らかになるだけでなく、犯人を含む関係者の行動や心理が大幅に加筆されており、より自然で、より複雑になっている。つまり、情報の質が大幅に向上しているのだ。質量ともに進化した、上出来の改稿である。
こういう読み方の楽しみを味わうと、オリジナルの横溝短編を誰か現役の作家が長編化した小説なんてのを読んでみたくなる。先日出た『半七捕物帳リミックス!』みたいに、横溝正史リミックスだ。
●書店に寄って本を買う。
『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』 M・カリン 角川書店