●京都旅行最終日。今日の目的地は国立博物館の一カ所だけである。現在開催されている特別展示「桃山時代の狩野派」を観るのだ。上野の国立博物館で買った年間パスポートが有効なので、フリーパスである。
●ホテルをチェックアウトし、荷物をロッカーに預け、烏丸口からバスに乗る。博物館前に着いたのは八時四十分頃。開館は九時半である。すでに博物館の入口には十人ほどが並んでいる。日差しを遮るもののないこんな往来で、一時間近く立ち尽くす気にならず、ふと思いついて近くの養源院を訪れることにする。
●養源院では、俵屋宗達の杉戸絵、襖絵と、伏見城の遺構とされる血天井を観る。杉戸絵の白象図は、教科書なんかによく載っている例のヤツで、間近に現物を観ると感激する。血天井は、説明を聞かされて分かる人型の染みが生々しい。ところがあとでネットの情報を調べてみると、伏見城からの移築であることにも染みが血痕であることにも、学術的には疑義があるそうな。
●養源院を出て博物館に出向くと、入口はすでに開かれ、特別展示会会場である明治古都館の前に長い列ができている。この列を見た瞬間、並ぶのが嫌になって特別展をあきらめた。平成知新館の常設展示だけを観ることにする。独り旅のありがたさは、このような咄嗟の気まぐれで、好き勝手にプランを変更できる点にある。
●一通り観て平成知新館を出てみると、明治古都館の前には誰も並んでいない。もしかして会場内は混雑しているのかもしれないが、少なくとも入館だけはすぐにできるようだ。一瞬心が動いたが、残念ながらもはや時間がない。潔くあきらめて、京都駅に戻る。
●駅の土産物屋で、酒の肴として鮒寿司、鮎うるか、すぐきを買う。こいつらは飲んでいい日の火曜日までおあずけ。帰りも「ぷらっとこだま」を利用して、四時間近くかけてゆっくりと東京に戻る。
●三日間歩き回って、坂や階段を上り下りして疲れてしまった。脚が筋肉痛である。だが、みっちりと京都にひたって国宝や重文を沢山観た、充実した三日間であった。また来年、京都旅行を計画する。
●帰宅すると、お願いしていた私家版の本が届いていた。
『もぎり観覧券の謎』 飛鳥井潔 湘南探偵倶楽部
『詩人怪盗伝』 飛鳥井潔 湘南探偵倶楽部
『真冬の殺人事件 植草甚一翻訳コレクション』 盛林堂書房
飛鳥井潔の二冊は鷺書房情熱叢書の復刻である。