●「横溝正史の『朝顔金太捕物帳』をちゃんと読む」プロジェクト。今回は第六話「数珠を追う影」を読む。金太の知人お町が、奇妙な因縁で手に入れた水晶の数珠。いくつかの珠には文字が彫り込まれており、続けて読むと「みほとけの」となる。こうくるともう、宝捜しネタに決まっている。魅力的なオープニングである。ところが結末は、膝の裏を後ろからカックンとされるような有様で、これはこれで特異な面白さがないこともない。
そしてこの作品のミソは、作者が読者にしかける下手人隠蔽の手法にある。(その詳細は伏字)であるかのように読者に印象付けられるという寸法である。まあ実際のところ、どこまで意図的な描写なのかは定かでないけれど。
改稿版は、人形佐七の「水晶の数珠」である。出版芸術社の『江戸名所図絵』に収録されているので、読む。基本的には金太版と同じ話で、ほとんど登場人物を変えただけ。文章の流用も多い。大きな違いは結末部分で、説明が丁寧になっているし、事件とは直接関係のない新たなエピソードが加わっている。下手人の計画が一部簡略化されているのは、なぜだか分からない。
さて、手持ちの本では同光社の『新編人形佐七捕物帳』(昭和二十六年刊)にも「水晶の数珠」が収録されているので、念のためテキストの異同をチェックする。ざっと眺めた限りでは、出版芸術社版と同じらしい。