累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ノヴェンバー・ジョーの事件簿』 H・プリチャード 論創社

●『ノヴェンバー・ジョーの事件簿』 H・プリチャード 論創社 読了。

森の探偵というキャラクターは極めてユニークだが、その設定は足枷にもなっている。作品の主要な舞台がどれも森林ばかりになってしまう。「フレッチャー・バックマンの謎」の前半では走る列車内が舞台だが、キャラクターならではの特徴があまり発揮されていない。もし仮に、この一冊で終わらずにシリーズが続いていたら、早いうちにマンネリに陥ってしまったのではないかと想像する。

作風は端正でまじめ。ホームズ流の、現場を観察して手掛かりを見出し、そこから論理的帰結を引き出す展開が、きちんきちんと書かれてある。その丁寧さは本家ホームズを凌いでいるように思う。捻りや外連味や切れ味はないが、全作ともに安定した出来栄えで好感が持てる。