累風庵閑日録

本と日常の徒然

八木新宮線

●いつものように朝五時に起きて、大浴場で体を目覚めさせる。旅先で起き抜けに、広々とした風呂に浸かるってえのは実に嬉しい。ホテルの朝食をたっぷり喰ってチェックアウト。JR桜井線で畝傍に移動し、そこから徒歩数分で近鉄八木駅に到着する。さてここからが、今回の旅行のメインイベントである。

●その前に余談だが、近鉄八木駅名店街はなかなか面白そうな佇まいである。この街で一泊して、駅前商店街の飲み屋をハシゴするのも悪くなさそう。

●そもそも今回の旅行の目的は、奈良交通が運行する日本最長路線バス「八木新宮線」に乗ることにある。八木新宮線は奈良県大和八木から和歌山県新宮まで、長途百七十キロ、時間にして六時間半、運賃にして五千円以上かかる路線である。かねてより廃止の噂がちらほら漏れ聞こえていたことから、早いとこ乗っておこうと思っていたのだ。

●序盤は何の変哲もない街の路線バスだが、御所停留所の辺りからは、車窓風景は次第に田畑が多くなる。やがて五条を過ぎると本格的な山岳路線となる。緑濃い紀州山地のど真ん中をひたすらたどるルートは、川とダム湖と山と村落と、同じようで違う風景の繰り返しで、大変面白かった。百六十以上ある途中のバス停は、それぞれに味のある名前が付いていて、それぞれに民俗学的な背景があるのだろう。

途中の十津川温泉湯の峰温泉はなかなかいい雰囲気で、できれば一度泊まってみたい。今回はこの路線に通しで乗ることが目的だったので素通りしたが、いつかは熊野本宮大社にも行ってみたい。同じく、時間がなくてパスした新宮の熊野速玉大社にも行きたい。景色を堪能すると同時に、いろいろ宿題が増えた一日であった。