累風庵閑日録

本と日常の徒然

『真珠塔・獣人魔島』 横溝正史 角川文庫

●『真珠塔・獣人魔島』 横溝正史 角川文庫 読了。

以前読んだはずだが、読んだという事実すら全く記憶にない。
「真珠塔」は、由緒正しきジュブナイル探偵小説の王道である。怪人の跳梁、隠された財宝、仮装舞踏会、時計塔、地下道での水責め、隅田川での追跡、気球による逃走。ありきたりではあるが、王道には王道の楽しさがある。

これでジュブナイルかと思うほど、コロコロと簡単に人が殺されまくるのがちょっと特殊。犯人は確かに意外だけども、それはミステリの技巧としての意外性ではなくて、一切の伏線がなく(伏字)が犯人というトホホぶり。その点はジュブナイルらしいともいえる。

ところでこの作品には原型がある。戦前に雑誌『新少年』に連載された「深夜の魔術師」である。出版芸術社から出た『深夜の魔術師』の表題作になっており、八年前に既読である。全く憶えていないけれど、当時の日記を読み返すと、どうやら微妙に内容が違うらしい。比較するためにも、再読してみたい。

「獣人魔島」は、悪人の脳をゴリラに移植するという趣向で、廉価版「怪獣男爵」の趣がある。途中からいきなり別の話になるなど展開に荒っぽいところもあるが、ジュブナイルでその辺りをツッコムのは野暮だろう。ちょっとしたネタを仕込んであるのが、「怪獣男爵」よりは幾分ミステリ寄りか。瀬戸内海に浮かぶ不気味な島だの、千光寺の了然和尚だの、これもまたヨコミゾ・ワールドである。