●『灰色の女』 A・M・ウィリアムスン 論創社 読了。
しんどかった。何しろ十九世紀の小説だから、せりふまわしがとにかく大仰でまどろっこしい。身振り沢山に大上段に振りかぶって会話しているような場面が長々と続くと、すぐに集中力が途切れてしまう。論創海外にしては小さな活字でみっしり組まれたこの本を読むのに、四日もかかってしまった。
だが、そのしんどい文章をどうにか読み進めてゆくと、内容は素晴らしく面白いのだ。クラシカルなサスペンスの要素がてんこ盛りで、次から次へと事件が頻発する。そんな中を主人公は、真実の愛だの永遠の誓いだのと熱い言葉をまき散らしながら奮闘し、突き進んでゆく。
終盤になるにしたがって展開は次第に盛り上がり、物語の奔流となって大団円へとたどり着く。現代風の文章にリライトしたらもっと読みやすく面白く、とふと思ったが、それはたぶん違う。この大時代な文章あってこその、怒涛のグランドフィナーレなのだ。
●ひとつ大事なのは、読める、という点である。これを刊行した論創社は、まったく素晴らしい。
●岩波書店から、宮崎駿がカラー口絵を描いた『幽霊塔』が刊行された。論創海外を刊行順に読んでいるだけなので単なる偶然なのだが、タイムリーなことである。すっかり疲れてしまったので、さすがに今から涙香を再読する気力はないが、気が向いたら乱歩の『幽霊塔』は再読してみようかと思う。