累風庵閑日録

本と日常の徒然

からくり駕籠

●「横溝正史の『朝顔金太捕物帳』をちゃんと読む」プロジェクト。今回は第八話「からくり駕籠」を読む。駕籠に乗り込んだ侍がいつの間にか十四五の小娘に変わって逃げ去ったという発端。戸締りをした家から般若の面が消え失せ、家の周囲の泥濘には誰の足跡もない、という不可能興味もからむ。

複数の筋道が最後まで交わることなく終わってしまう。冒頭に「例によって例のごとく、朝顔金太が胸のすくやうな腕を揮はうといふ、そのいきさつ」とあるが、真相の大半は関係者が喋って判明する。日頃横溝作品をひいきにしているが、ううむ、この作品を褒めるのは難しい。一点だけ、般若の面が湿っていることから犯行時刻の当たりを付ける部分が、わずかにミステリ味を感じさせる。

続いて、改稿版佐七ものの「からくり駕籠」を読む。この作品は、春陽文庫人形佐七捕物帳全集第十四巻『緋牡丹狂女』に収録されている。死体発見後の取り調べの模様が追加され、解決に至るステップが一段階増えているが、基本的には同じ話である。

さて続いて、佐七版のバージョン違いによるテキストの異同を確認する。まずは金鈴社から昭和四十七年に刊行された、新編人形佐七捕物文庫第五巻『三人色若衆』に収録されているもの。春陽版とほぼ同一だが、ざっと眺めて二個所だけ、違いに気付いた。春陽版の方には補足的記述として、佐七の推理の根拠が四行と、結末での関係者の後日譚が一行と、それぞれ追加されている。

お次は、昭和二十六年刊行の同光社『新編人形佐七捕物帳』に収録されたバージョン。逐語的に照合していないが、ざっと眺めた感じでは金鈴社版と同じ。