技術畑出身のクロフツの持ち味が、色濃く表れた作品。終盤までさんざん苦戦したフレンチ警視だが、(伏字)というわずかな手掛かりをきっかけにして、一気に真相にたどり着く。かなり早い段階ではっきり書かれているこの手掛かりは、注意深い読者なら気付いたかもしれない。私は気付けなかった。こういう、シンプルでいながら決定的な手掛かりは好みである。
それにしてもクロフツは、さしたるスリルもサスペンスもなく、奇天烈な不可能犯罪もないのに、どうしてこんなに面白いのか。一つ一つ丹念に着実に、すべてのポイントを潰しながら、じわじわと物事を進めてゆく展開がどうしてこんなに面白いのか。まるで梱包材のプチプチを潰すようなものである。どの作品を読んでも味わいが同じだというのも、プチプチ潰しに通じるものがある。