●『紅はこべ』 B・オルツィ 博文館 読了。
世界傳奇叢書の一冊で、昭和十五年刊である。この本のキモは、訳者が横溝正史であること。本編の「紅はこべ」と、「紅はこべ夜話」という統一タイトルが付けられた短編三作が収録されている。それぞれの短編の題名は「消える伯爵夫人」、「断頭台と鳩」、「王妃の薔薇」である。
完訳なのか抄訳なのか知らんけど、ストーリーは意外なほどシンプルで、極めて分かりやすい。原書刊行当時ベストセラーになったというのも頷ける。紅はこべ団の首領は誰か?というのが序盤の謎だが、正体の設定はいかにもありがち。また他に「いかにも」な展開としては、卑劣な脅迫者に強いられ、兄の命の保証と引き換えに、心ならずも裏切り行為を働いて悲嘆にくれる麗人。あるいは失われた夫の愛を取り戻すため、かつは夫の危難を救うため、必死で行動する貴夫人。なんてのも。
短編では、紅はこべが意外な役回りを果たし、ちょっとした捻りのある「消える伯爵夫人」と、謎の殺人鬼が跳梁する「王妃の薔薇」が面白かった。たった三編読んだだけでは判断のしようもないが、もしかしてこのシリーズ、意外にストーリーがバラエティに富んでいるのかもしれない。