累風庵閑日録

本と日常の徒然

『死を歌う天狗』 風見潤 ソノラマ文庫

●『死を歌う天狗』 風見潤 ソノラマ文庫 読了。

横溝正史の影響をあからさまに受けたジュブナイル・ミステリ。村の二大勢力の対立、古くから伝わる手毬唄、十五年前の事件、といった趣向が出てくる。文中に『獄門島』や『八つ墓村』への言及があって、その影響を明示してある。村の地図、屋敷の見取り図、関係者の行動時刻表、読者への挑戦、といった道具立ても盛り込んであり、読んでいる間は実に楽しい。

肝心の真相だが、大きなネタがふたつあって、片方は中盤で気付いたがもう片方は分からなかった。犯行方法は、こうすればできるという説明はあったが、証拠を積み重ねてこうでなければならないとする論証に乏しく、その点がちと残念。でも、手毬唄になぞらえて殺人を犯す理由と、被害者の服装の理由とが面白かった。

他にもいくつかミステリ的なネタがあるが、驚きや感心は少ない。どうも、多くのネタを詰め込もうとしてそのすべてに十分に手が回らなかったような。