●サントリー美術館に、「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」と題する展示を観に行ってきた。明治の実業家藤田伝三郎と、その嗣子らが蒐集した美術品を所蔵する、藤田美術館という施設が大阪にあるそうな。今回はその収蔵品を展示するものである。
なんといっても目玉は、世界に三碗しか現存せず、そのすべてが日本にあり、そのすべてが国宝だという曜変天目茶碗である。形容の難しい濃紺の輝きをしみじみ見入ってしまう。
これ以外で最も印象に残ったのは展示品ではなく、中国明~清時代の焼物、交趾大亀香合にまつわるエピソード。病床にあった藤田伝三郎はどうしても欲しい香合にオークションで大金をつぎ込み、落札に成功した十日後に息を引き取ったという。コレクターの業というか執念といおうか。
●続いて太田記念美術館にはしご。「錦絵誕生250年記念 線と色の超絶技巧」と題する展示を観る。今回は浮世絵制作の技法の洗練に注目した内容で、これが予想以上に面白かった。浮世絵の発展の歴史を、墨刷りから丹絵、紅絵、紅刷りという順に実例の展示とともに解説してあるのが実に分かりやすい。
彫りの技術、刷りの技術それぞれに、「ここが凄いところ!」と観るべきポイントを指し示してくれるのが極めて分かりやすい。浮世絵は人の手で彫り人の手で刷る美術品だという、あたりまえのことをあらためて教えてくれる。そう思って絵を観ると、着物の柄や蚊帳の糸の一本一本、雨を表現する濃淡の筋など、凄まじい。これは上出来の企画であった。