●「横溝正史の『朝顔金太捕物帳』をちゃんと読む」プロジェクト。今回は第十話「影右衛門」を読む。
江戸の街で頻々と発生する両替商襲撃事件。下手人は影右衛門と名乗る怪盗で、必ず千両箱一箱だけを盗み出し、貧乏人に施して回るという。影右衛門の正体の設定がちょっと面白いが、解決はいきなり結論だけを投げ出した格好で、かなりラフな作品。終盤で起きる不思議な現象も、ちと苦しい。
さてお次は、改稿版佐七バージョンを読む。手に取ったのは出版芸術社の『江戸名所図絵』である。影右衛門の名前の由来、過去の因縁、関係者の人間関係等々、多くの情報が追加され、物語が複雑になり、解決も丁寧になっている。さらには金太版で盗難事件だったものが、佐七版では殺人事件にまで発展している。正史がよほどしっかり構想を練り直したことがうかがわれ、比較して読んでこその面白さがある。