表題作を目的に手にした本だが、せっかくだから同時収録の「神変稲妻車」も読んだ。以前読んだ時の印象はまるで残っていないから、当時はたぶんつまらなかったのだろう。今回読んでみると、こんなにハチャメチャで、波瀾万丈、やりたい放題の小説だったとは。驚き呆れて笑ってしまう。
のっけからフルスピードの活劇である。白鷺弦之丞蓬莱閣のチャンバラ、幻術師雁阿弥法師の使う妖術折鶴呪縛、弦之丞の双生児の妹小百合の登場、怪囚人稲妻丹佐の逃亡。これだけの要素が、開巻わずか二十ページに詰め込まれ、それ以降も同様の密度で突拍子もない物語が展開される。
刹那的な見せ場がひたすら続くばかりで、メインとなる物語の軸がなかなか見えてこない。小説としての構成は心細いけれども、そんなことはどうでもいいのだ。いやはやどうも面白い。でもこうやってまとめて読むより、雑誌連載で読んで、ただその場その場の盛り上がりだけを味わうのが正しい楽しみ方なのかもしれない。