累風庵閑日録

本と日常の徒然

『メリリーの痕跡』 H・ブリーン 論創社

●『メリリーの痕跡』 H・ブリーン 論創社 読了。

 オープニングの都会の風景とメインの船旅の様子が、シャレオツで優雅。その手のミステリの典型的な味わいである。主要登場人物以外の乗船客の描写が薄くて「その他大勢」になってしまっているのと、真相の意外性がちと心細いのが残念。けれど、配置された手掛かりが示すあからさまな矛盾に全く気付かなかったので、脱帽するしかない。そして、そんな手がかりの技法を読めて嬉しい。

 ところで文章には相性というものがある。相性の悪い文章は、一つの文を何度読み返してもなかなか意味が頭に入らないことがある。この本はその逆で、読んでいて気持ちいい。また、要所要所で犯人の悪意が突出して迫ってくるので、中だるみしない。全体として、かなり満足度の高い作品であった。

●隣の市の図書館に立ち寄り、利用者登録をして直ちに横溝正史自選集を借りてきた。第四巻『犬神家の一族』から第七巻『仮面舞踏会』までの四冊である。この週末に巻末付録を読む。