累風庵閑日録

本と日常の徒然

『鷲尾三郎名作選』 河出文庫

●『鷲尾三郎名作選』 河出文庫 読了。

 これは楽しい。伏線だとか真相を導くロジックだとか、そういった観点とは別の次元で、ミステリを読む楽しさを存分に味わえる。戦後本格ミステリがまだ若かった時代、トリック偏重だった時代の、若さゆえの無邪気さ、溌剌さといったものが、おっさんにとっては微笑ましい。登場人物達が推理小説を評するとき、トリックが弱いだの強いだのに大真面目なのが、時代を感じさせる。

 何かというとやたらにウイスキーを飲み煙草を吹かしているのと、気象条件を利用したネタがやけに多いのが目立った。「姦魔」で、被害者を誘導する手段の描写にはちょっと感心した。

●これで、河出文庫本格ミステリコレクション全六巻を読み終えた。いやはや、素晴らしい企画であった。好みでない作家も交じっていたが、それは実際に読んで初めて分かることで。この企画がなければ、そもそもそう簡単に読めなかったのだ。文庫で簡単に読めるというのは、実にありがたい。でもこんな好企画なのに、第二期まで続かなかったのが残念なことである。