累風庵閑日録

本と日常の徒然

お高祖頭巾

●「横溝正史の『朝顔金太捕物帳』をちゃんと読む」プロジェクト。今回は第十二話「お高祖頭巾」である。中盤で金太が示す、ホームズばりの推理のひらめきは楽しいが、結末は推理も何もなく、下手人が自分でべらべら喋って解決。やっぱり金太シリーズはあっけない。真相は中盤であからさまに提示されているものと思いきや、ちょいと捻りがあるのは面白い。お高祖頭巾という小道具がちゃんと活きている。

 続いて改稿された佐七版の「お高祖頭巾の女」を読む。出版芸術社の『江戸名所図絵』に収録されている。読んでみると、あららら、全然別の話になっているではないか。万引きの趣向こそ同じだが、オープニングからしていきなり違っている。登場人物も違うし殺人が増えているし、そもそも事件の展開も真相の構造も違う。利き腕の扱いも万引きの趣向も違う。違うは違うなりに、こちらもシンプルな物語。

 さらに、近縁種である佐七もの「万引き娘」も読んでみる。春陽文庫の第四巻『好色いもり酒』に収録されている。これはこれで、上記二作品とはまた別の話。佐七が真相の一端を掴む手掛かりが奇天烈。一番最後に書かれたこの作品が、さすがに洗練されて物語も複雑になり、出来がよくなっているようだ。でも、娘の着物に血が付いた経緯は、なんでわざわざそんなことを、と思ったけど。

 事件解決後の結末がやたらに強引で、腕ずく力づくで鼓舞鞭撻などとやらかしている。さながら艶笑落語のような趣があって、横溝先生、ノリノリである。これはもしかして初出で読むと違っているのかもしれない。その辺の確認のため、金鈴社『坊主斬り貞宗』に収録されているバージョンをざっと眺めてみた。すると案の定というかなんというか、結末が至極あっさりしている。なるほどね。

 さらにさらに、現代ものに直した「黒蘭姫」と現代もの近縁種「霧の中の女」とを再読しようかと思ったが、残念ながら時間切れ気力切れ。しんどいから自分でやるつもりはないけれど、これら五作品の犯人像、手がかりの扱い、万引き行為の内幕など、相互の違いを一覧表にしたら面白そう。

●資料のコピー。今回で、想定していた資料をすべてコピーした。で、新たに資料を追加投入することに決めた。できれば今週末までに方を付けたいのだが。