累風庵閑日録

本と日常の徒然

『新幹線大爆破』 J・ランス+加藤阿礼 論創社

●『新幹線大爆破』 J・ランス+加藤阿礼 論創社 読了。

 型通りのパニック・サスペンス。だが、その「型」が実に上手くハマっていて、いやはや、すこぶる面白い。一難去ってまた一難式の展開が強引だけれど、フルスピードで突き進む物語に乗っかって読んでいるうちはさほど引っかからない。きっちり憎まれ役を設定してあるのもこれまた型通りで、不愉快で面白い。

 有能な人間と、無能な人間。周囲の情報を基に判断を下す人間と、現実から目を背けて都合のいい思い込みに逃げ込む人間。冷静に振舞おうと必死で努力する人間と、パニックを起こして不安を怒号に直結させる人間。それぞれの人間像が、極限状況で無惨なまでにさらけ出される。

 昭和五十年代、まだ未来に希望があった頃の、どことなく漂う野暮ったさが郷愁を感じさせる。丸まっちい0系新幹線が、しゅっとした流線型の、夢の超特急として描かれている。食堂車もビュッフェも連結されていた時代である。あの頃の希望は、今となっては儚い幻影であったけれども。