●『「密室」傑作選』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。
山沢晴雄「罠」は、語り手の人物像が冷徹で面白い。これはきっと、(伏字)のだろう。そう読んだ方が面白さが増す。鮎川哲也が別名義で書いた「呪縛再現」は、よく考え抜かれたさすがの逸品……と言いたいところだが、途中から物語のトーンががらりとかわる不思議な構成に、あれれ、と思う。
天城一「圷家殺人事件」は、無味乾燥に情報を積み重ねるタイプかと思っていたら、意外なほど叙情味がある。それ以上は、ううむ、ノーコメント。読みながら、作品の質とは関係ないところで不愉快な連想が湧いてきてしまい、そのせいで読後感が悪い。作品にとってはとんだとばっちりで申し訳ないことだが、嫌な感じを抱いてしまったことは事実である。詳細は書かない。『別冊シャレード69』に収録された、この作品の解説だの感想だのを読めば、理解が深まるかもしれないし、別の感想を持つかもしれない。
余談だが、ある事柄が不思議なほど頭に入らないことがある。「圷」なんて文字はまったく馴染みがないので、読みが「あくづ」なのか「あづく」なのか、いつまで経っても覚えられなかった。