累風庵閑日録

本と日常の徒然

四次元温泉日記

●今回取ったサンライズの個室は、進行方向右側に位置する。今の季節だと熱海を過ぎる頃には白々明けで、車窓に時折見える太平洋が青黒い。定時に東京駅に到着した列車を降り、どこかに寄り道するでもなく、そのまま真っ直ぐ帰ることにする。

●帰宅して、荷物の整理その他の事後処理をし、少しばかり昼寝。大きなイベントの後の、まだ現実感がどこか欠けているようなふわふわした気持ちを、今日一日で現実の地平に引きずりおろす。

●今日は文学フリマが開催されており、行くかどうか迷う。けれども大概疲れているし、いったん帰宅して腰を下ろしてしまうと、なんだかまた出かけるのが億劫になった。欲しい本は通販で買えるというから、今回はパスする。

●東京に着くまでの列車内で、岡山駅で買った『四次元温泉日記』 宮田珠己 ちくま文庫 を読了。酔った状態で読んだし、ちょっと飛ばし読みもしたから、読んだ数には含めないことにする。

 著者は温泉に全く興味がなく、それどころかそもそも風呂にはいるのが面倒臭いという。一方、迷路のような複雑な構造を持つ古い旅館には興味津々。そんな著者が連載企画として、ただ建築に対する興味のみで各地の古い温泉旅館を訪れるうち、次第に温泉の魅力にハマっていくことになる。その顛末を記した、旅行記のような旅館紹介のような本。

 挙げられている宿はイニシャルで表記されているが、ちょっと調べれば同定できるだろう。実際、出てくる宿のうち、奥那須K温泉、四万温泉S館、東鳴子温泉T旅館には私自身泊まったことがある。その実体験から推測して、他の宿も似たような味わいなのだろう。複雑に折れ曲がった廊下と不意に現れる階段、あまりにも趣き深すぎる湯殿、といった要素は、かなり大きな魅力である。となると、ぜひ行ってみたくなる。年内は無理だが、来年になったらいろいろやりくりして、久しぶりに渋い温泉旅館に泊まるべく、画策してみたい。