累風庵閑日録

本と日常の徒然

『江戸の温泉三昧』 鈴木一夫 中公文庫

●『江戸の温泉三昧』 鈴木一夫 中公文庫 読了。

 倉敷のイベントに旅のお供として携えていった本。旅行中は結局半分しか読めなかった。昨日読んだ『四次元温泉日記』は、酔った状態で時間潰しに読むためにその場でぱっと買った本だが、こっちは素面の状態でちゃんと読みたい本なので、読了に今日までかかった。

 江戸時代に書かれた日記、紀行文などの文献によって、下級武士、学者、文人、それに一般庶民が温泉をどのように楽しんだかを紹介する本である。また、古くは無人の地に湧いていたはずの温泉が、地域住民の湯治場からやがて歓楽色の強い温泉地にまで至る、発展・変貌の記録もたどる。

 菅江真澄は、当初は温泉の史跡としての側面にしか関心がなかったが、青森の浅虫温泉でその魅力に開眼し、やがて天晴れ温泉好きになってしまった。本居宣長の養子、本居太平(おおひら)は、心中に凝り固まるような心地を感じ、日頃の疲れを癒そうと有馬温泉に湯治に赴く。各地から有馬を訪れた湯治客のなかには文人墨客も多く、大平は彼らとの交流を深め、広めてゆく。

 昨日に引き続いてこういう本を読むと、いよいよますます温泉に泊まりに行きたい気分が盛り上がってきた。山間の温泉宿に一週間ばかり滞在して、退屈してみたくなる。散歩と読書と昼寝と入浴に明け暮らすのだ。それが叶わずとも、せめて一泊二日で温泉に行きたい。来年の温泉旅行計画をぜひとも実現すべく、固く決意をして心中で拳を握りしめるのであった。また、本書中で言及される、岩波文庫田山花袋『温泉めぐり』を読んでみたくなった。