累風庵閑日録

本と日常の徒然

『シャーロック・ホームズの大冒険(上)』 M・アシュレイ編 原書房

●『シャーロック・ホームズの大冒険(上)』 M・アシュレイ編 原書房 読了。

 上下巻、全二十六編収録のホームズパスティシュアンソロジーである。今回はその上巻だけを読む。パスティシュは必ずしも優れたミステリである必要はないが、登場する探偵がいかにもホームズらしくないといけないという意味のことが、序文に書いてある。「事件よりもキャラクターのほうが重要になるのだ」だそうで。そういう編集方針を最も露わに体現したのが、バーバラ・ローデンの「怪しい使用人」である。ここで扱われる事件は、びっくりするくらい他愛ない。

 ミステリとして秀逸なのが、E・D・ホックの「サーカス美女ヴィットーリアの事件」と、次点としてデニス・O・スミスの「銀のバックル事件」である。手がかりに基づいたホームズの推理がきちんと書かれているし、いかにもミステリめいた真相が嬉しい。

 ホームズパスティシュの面白さの源泉は、ワトスンとのコンビにこそあるということが、よく分かるアンソロジーである。キャラクターの魅力は、二人がペアとなって初めて存分に発揮されるのだ。ホームズが学生時代に手がけた事件だという最初の二編は、どうも物足りない。

 さて、下巻を読むのは来年になる。たぶん一年後くらい。