●『風流べらぼう剣』 都筑道夫 文春文庫 読了。
私の嫌いな湿っぽさのない、ハードボイルド人情咄。このドライさは、主人公左文字小弥太の造形に多く因っているようだ。かといって、主人公が冷酷なわけではない。薄っぺらな同情をしない現実主義の裏に、様々な事情を抱えて底辺を彷徨う人間達への共感がうかがえる。自らを敗残者と位置付けて、似たような立場の人々の、ぎりぎりの生活を守ってやろうと決意する、熱い心情がほの見える。
癖のある都筑文体で綴られる、江戸の季節感や明け暮れの情景が、読んでいて気持ちいい。前作『べらぼう村正』を含めて、全体が緩やかにつながってひとつの大きな物語になっている。七月に読んだ『べらぼう村正』の内容を、もうあまり覚えていないのが残念。これは二冊続けて読むべきであった。