累風庵閑日録

本と日常の徒然

『石』 小松左京 出版芸術社

●『石』 小松左京 出版芸術社 読了。

 「ふしぎ文学館」シリーズの一冊で、恐怖小説集である。「くだんのはは」はさすがの名作。再読の今回は、時代の色に染められた少年が、つい表してしまった卑劣さに目がいった。他に、「海の森」、「秘密(タプ)」といった土俗的な趣向を盛り込んだ作品が好みである。再読の「保護鳥」も好きな作品で、結末の切れ味がお見事。剃刀の鋭い切れ味ではなく、全ての希望を押し潰しながら断ち切る鉈の切れ味である。収録作中では、「比丘尼の死」が随一。密度、テーマともに、書き込んだら長編になりうる重量級の作品。

 それにしてもつくづく思う。私にはもう、SFの面白さを受信するアンテナがほとんど残っていないのだ。「凶暴な口」の自動手術装置や、「ハイネックの女」の描写を読むと、気持ちがすうっと醒めてしまう。残念なことではあるが、これも精神の老化と思って、受け入れるしかないのかもしれない。