累風庵閑日録

本と日常の徒然

旅先で年越し

●年が明けてから年末の日記を更新するのは間が抜けているが、かまわず書く。

●独り部屋にこもって年を越すのはちょっとアレなので、「18きっぷ」を使ってどこか余所の街に泊まりに行こうと思う。結局は出先のビジネスホテルで、独り部屋にこもって年を越す訳だが。

 今回は山梨県甲府に行くことにした。別に用事はない。近過ぎず遠過ぎずの手頃な場所で、それなりの規模の街として選んでみた。

●早朝の電車で行動を開始し、中央線を西へ進む。高尾を過ぎるともうすっかり山岳路線で、車窓は色彩の乏しい冬枯れの風景となる。葉を落とした樹々の焦げ茶に、常緑樹のくすんだ緑が混じる。紅の椿と落ち残った柿とが、冬の弱い日差しに照らされている。

 岩殿山の峻険な山容を右に観て大月駅に到着。特急の通過待ちで十分弱停車する。のんびりしたものである。やがて長大な笹子トンネルを抜け大日影トンネルを抜け、甲府盆地を見下ろす高みへと抜け出る。豁然として眺望が開け、雪を戴いた山々が遠く屹立している情景は、何度観ても気持ちが晴れ晴れとするようである。

甲府へは昼前に到着した。特に何をするという当てもないが、チェックインの三時までは時間を潰さなければならない。昼飯を喰って、駅からすぐ近くの舞鶴城公園まで歩き、本丸跡の高台に登って周囲を見回す。東西南北に山がそびえ、甲府が盆地であることが一目で分かる。幸いよく晴れて風もなく暖かいので、そこにしばらく座ってぼんやりする。

 だが、そう何時間もぼんやりしていられるものではない。駅に戻って駅ビルの食品売場をうろうろし、今晩の酒肴を物色する。どうも外に飲みに行くのが面倒臭いので、あらかじめ買っておこうと思う。

●ホテルにチェックインしたらまずは三十分ほど昼寝して、起きたら付属の大浴場でひとっ風呂浴びる。さて、あとはもうのんびりするだけである。持ってきた乱歩全集から「黄金の虎」を読む。昨日読んだ「灰色の巨人」は内容が薄いと感じたが、それに輪をかけた薄さで、いい歳こいたおっさんが読むのはなかなかしんどい。

 中編「月と手袋」は中盤以降の、犯人が追いつめられてゆく描写のねちこさはちょっと乱歩らしかった。結論として面白かったけれど、乱歩が書かなくてもよさそうな。

ポメラで今日の日記を書いていると、そろそろいい時刻になった。もう飲み始めることにする。やがてひとしきり飲み喰いを終え、適当なところでさっさと寝てしまう。今日夜更かしするより明日早起きした方が、なんぼか時間を有効に使えるというものである。