累風庵閑日録

本と日常の徒然

鷺十郎をちゃんと読む

●今日から、「横溝正史の『鷺十郎捕物帳』をちゃんと読む」プロジェクトを発足させる。昭和十五年から十六年にかけて、雑誌『日の出』に五回連載された捕物シリーズである。月イチで読んで、五月まで続ける。

 今回はその第一話「鳥追人形」を読む。舞台は寛政年間で、後の佐七版との比較のために書いておくが、永代橋墜落事件の起きた文化四年よりも遡った時代である。倒れて壊れた生き人形の内部から腐乱死体が出てくるという、ありがちと言えばありがちな発端だけれども、全体はなかなか意欲的な内容になっている。(伏字)と(伏字)という、それぞれ単独で短編を支え得る古典的なミステリネタを、二つも使っているのだ。鷺十郎が真相を見破る根拠がきちんと設定されているのも好ましい。ただし、読者にはその根拠が結末まで示されないのは、まあ捕物帳だからしかたあるまい。

 シリーズを初めて読むので、ここで物語の設定を整理しておく。
◆主人公
鷺坂鷺十郎。親の跡目を継いで近頃八丁堀の組屋敷に入った新参者の同心。まだこれという手柄を立てていない。年齢は二十七、八で、色白の、ふるいつきたいようないい男。ところが、いつも組屋敷の隅っこで居眠りばかりで、同僚からは昼行燈だと馬鹿にされている。

◆子分格
へのへの茂平次。母が鷺十郎の乳母をしており、鷺十郎とは乳兄弟。小網町の裏店に住み、魚屋渡世をしている。つまり、普通の捕物帳のような親分子分の間柄ではない。鷺十郎に手柄を立てて欲しくてやきもきしており、捜査の手伝いをする。なんと、佐七の憎まれ役でおなじみの茂平次の名前が、ここでは主人公に心服する人物の名前として使われているではないか。そしてこれまたなんと、女師匠の杵屋和考に惚れられて、味な流し目のひとつも貰おうという、子分格には珍しい役所。顔つきが頗る妙だと書かれている割には、モテている。

◆ライバル
藤井勘左衛門。泣く子も黙る古顔の鬼同心。色が黒いところから、通称烏勘左衛門と呼ばれている。二人の手柄争いには、「これこそ鷺と、烏の捕物くらべ、捕物烏鷺合戦のはじまりでした」と煽り文句が書かれてある。

●ここまで書いて時間と気力が尽きた。改稿版の人形佐七バージョンも読んだけど、それを文字にするのは明日に先送りする。