累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ソープ・ヘイズルの事件簿』 V・L・ホワイトチャーチ 論創社

●『ソープ・ヘイズルの事件簿』 V・L・ホワイトチャーチ 論創社 読了。

 二十世紀初頭の短編ミステリの、大らかな味わいが楽しめる。訳されて嬉しい、読んで嬉しい短編集である。ただ、二十ページ前後しかない作品ばかりなので、読後感はあっけない。本筋の合間に、ヘイズルの日常の行動が描かれる。作品が短いので相対的にその部分の割合が多くなり、ところ構わず奇妙な体操をして奇矯な食生活を信奉するヘイズルの奇人ぶりが際立つ。

 今現に進行中の事件を行動で解決するアクション小説が、割と多く含まれているのは意外であった。シリーズ主人公が登場しない後半の六編に、その傾向が目立つ。あっけない推理譚よりも、アクション主体の作品の方に面白いものが多かった。もしかしてこの作者の本領は、国際スパイが関わるアクション小説にあるのではないかという気になってくる。

 秀逸作は「ロンドン・アンド・ミッドノーザン鉄道の惨劇」、「サー・ギルバート・マレルの絵」、「ドイツ公文書箱事件」、「主教の約束」、「先行機関車の危機」辺り。主に映像的な動きの面白さで選んだ。