累風庵閑日録

本と日常の徒然

『月ぞ悪魔』 香山滋 出版芸術社

●『月ぞ悪魔』 香山滋 出版芸術社 読了。

 いやはや、これは面白い。この奇想、この想像力は、小学校の図書館でヴェルヌの『地底探検』や、ドイルの『失われた世界』に出会った頃のときめきを思い出させてくれる。一番気に入ったのは「海鰻荘後日譚」で、ここに描かれた執念はちょいと凄味がある。

 だが、残念な部分もある。香山滋をまとめて読むのはたぶん初めてだが、出会いが遅すぎたのだ。作家にも作品にも、出会いに相応しいタイミングというものがある。例えば三十年前、感受性が若く柔軟だった頃に出会えていたら、もっと素直に楽しめていたと思う。今となっては展開に随分荒っぽいところが見えて、おいおいいくらなんでもそりゃないだろ、とツッコミを入れたくなってしまう。