●朝飯を喰って洗い物を済ませ、コーヒーを淹れて本を読む。ちょっと残っていた 『妖術伝奇集』 岡本綺堂 学研M文庫 を読了。三か月かけて細切れにして、ようやく読んだ。
「玉藻の前」
日の本を暗黒の国にしようと企む、妖魔玉藻の前がとにかく強大で奸悪。狡知を備え魔力に長け、艶麗な外見で男をたぶらかす。対抗する陰陽師安倍泰親もたじたじだとなり、一の弟子千代太郎泰清は、素質はありながらたぶらかされて惑ってばかり。人間どもは皆、色欲、権力欲、保身の思惑、虚栄心、妬みや嫉妬、その他様々な煩悩を抱えて、純粋な善になれない。純粋な悪のまえにあまりに無力なのである。割とオーソドックスな展開を綴る綺堂の文章は、何気ない場面を平易に描いて凄味が際立つ。
「小坂部姫」
舞台は南北朝時代。父の、兄の、野心を持った家来の、欲や愚かさに翻弄される小坂部姫。謎の異国人に身の危険を助けられ、放浪の果てにたどり着いた先は。という戦国家庭悲劇。……と思って読み進めていると、急激にスケールが大きくなって驚く。超大作映画で観てみたい。イメージとしては黒澤明の『乱』に伝奇要素を盛り込んだような。その筋の作家が書くと、クトゥウルフネタにも発展しそう。「玉藻の前」と併せて、この順番で読むのにも意味がある。
「蟹」も「五色蟹」も、何があったのかはっきり書かれていないところが実に不気味。「木曾の旅人」は、何度読んでも面白い名作。 随筆「温泉雑記」の途中に挿入されている怪談の、根津はだまって答えなかった、の一文が怖い。
●十時になったらジムに行き、一汗かいてそれで午前中は終わり。
●帰宅して昼寝して、この日記をアップしたらまた出かける。午後は、今日から銀座スパンアートギャラリーで始まる、杉本一文画伯の個展を観に行くのである。そして夕方から、横溝系の飲み会に流れる。