累風庵閑日録

本と日常の徒然

『短刀を忍ばせ微笑む者』 N・ブレイク 論創社

●『短刀を忍ばせ微笑む者』 N・ブレイク 論創社 読了。

 単なる不平不満を現行体制への批判にすり替えて、独裁政権の樹立を目論む者達。歴史の針を巻き戻したような、古い価値観を信奉する狂信者達。指導者の教唆に手もなく扇動され、自ら進んで奴隷になりたがる愚か者達。そういう人間達の秘密結社に、主人公が立ち向かうスリラー。この作品は、今読んでこその凄味がある。ほんの数年前までなら、読んでいる今こことはまるで関係のない、遠い異国の遠い過去の物語であったのだが。

 謎の要素がほとんどなく、途中までの展開は平板だが、終盤のドライヴ感はなかなかのもの。ちょっとした冒険小説の趣がある。けれど結局、扱っている題材があまりにも不愉快なので、読了後に残るのはほぼ厭わしさだけであった。