累風庵閑日録

本と日常の徒然

『他言は無用』 R・ハル 創元推理文庫

●『他言は無用』 R・ハル 創元推理文庫 読了。

 これは傑作。捻じれ、歪み、蛇行するストーリーが面白い。どんな組織にもいそうな様々な人間類型を、誇張してシニカルに描いてあるのが面白い。お互い勘違いした者同士が交わす会話のすれ違いが面白い。

 謎の脅迫者に翻弄される、クラブの幹事レナードのキャラクターが秀逸。普段はそこそこ無難に仕事をこなしているが、ひとたびトラブルが発生すると、たちまち無能さをさらけだしてしまう様が可笑しい。だが、単純に笑ってもいられないのだ。翻って我が身を省みると、何かトラブルが起きた時にどこまできちんと対応できるか。何やら身につまされるものがある。

 それにしても、リチャード・ハルがこんなに面白いとは。本書の後、原書房で一冊出たきり翻訳が途絶えているのが残念。そして直接関係ないことだが、原書房のヴィンテージ・ミステリー・シリーズをまだ一冊も読んでいない事実にあらためて気付いてしまうのであった。