累風庵閑日録

本と日常の徒然

『探偵サミュエル・ジョンソン博士』 リリアン・デ・ラ・トーレ 論創社

●仙台旅行に持って行った『探偵サミュエル・ジョンソン博士』 リリアン・デ・ラ・トーレ 論創社 を読了。

 疲れる。些細な描写や登場人物の何気ない一言が伏線になっているので、いい加減な読み方ができないのだ。一編一編にじっくり集中して取り組まなければならず、なかなかに読むのが疲れる。それだけ密度の高い作品が揃った、上出来な短編集であった。

 カーのH・Mを思わせる博士と、少々軽薄で人間臭いボズウェルのコンビがシリーズの大きな魅力になっている。幽霊や蝋人形、ゴシック趣味に街道の追いはぎ、といった趣向は、これもカーの作品を思わせて、小説それ自体楽しい。そこに緊密に構成されたミステリの興味が乗っかるのだから、驚くほどの読み応えとなる。

 各編出来不出来があまりなく、高いレベルで安定している。この水準の高さは、複数の原書短編集から良いものを選んだ編集の成果なのだろうか。もっと読みたい。第二短編集が編まれますように、と星に願っておく。