累風庵閑日録

本と日常の徒然

『宛先不明』 鮎川哲也 講談社文庫

●『宛先不明』 鮎川哲也 講談社文庫 読了。

 鮎哲らしい特徴が詰まった作品。だが、巻末解説にもあるようにいかにも小味で、「らしい」以上のものはあまり感じられなかった。題名が示す事柄と(伏字)的条件とを組み合わせたメインのネタは、よく考えられていると思う。だがこれもアイデア一発というか、一点突破型というか。さんざんひねくり回してじわじわと真相に迫ってゆく妙味には乏しい。

 巻末の創作ノートによると、「産業推理小説シリーズ」の一巻として書かれたのだそうな。企画意図がどれだけ内容に反映されているのか知らないが、「サラリーマン小説」の色合いが濃い。そういう味わいも、いまひとつ乗れなかった一因である。日常を思い出したくてミステリを手に取るわけではないのだよ。

●ネット通販でDVDの『不知火奉行』を買った。先月読んだ横溝正史の時代小説が原作である。ストーリーの構造に気を付けながら、原作の展開と比較しつつ観てみようと思う。