累風庵閑日録

本と日常の徒然

『運命の塔/ドラモンド』 春陽堂

●『運命の塔/ドラモンド』 春陽堂 読了。

 昭和四年に刊行された、探偵小説全集の第九巻である。前半のコオナン・ドイル集は先日読んだ。昨日と今日とで後半のサッパア「ブルドック・ドラモンド」を読み、これで一冊読み終えたことになる。

 主人公は、「ブルドック」の異名を持つ退役軍人ヒウ・ドラモンド大尉。退職後の無聊を紛らすネタを新聞広告で募集したことをきっかけに、自ら進んで国際的陰謀団を相手の闘争に飛び込んでゆく。

 ストーリーは富豪誘拐事件を巡る活劇が主軸となる。陰謀団の目的が金儲けだということは第一章で示されているのだが、単純な身代金目的の誘拐ではない。具体的な計画は不明で、陰謀団が一体何を目論んでいるのか、という点も興味のひとつである。

 主人公のキャラクターがとにかく陽性、快活で、そのおかげで物語に悲壮感や緊迫感といったものは少ない。敵のボスとの掛け合いも、しゃあしゃあとして人を喰った様子が、どこかユーモラスな味わいである。日本人オザキに伝授された柔道の達人で、ゴリラと格闘して絞め殺したりする肉体派。かといって筋肉馬鹿ではなく、車のタイヤの跡から状況を推理するし、敵を欺く策略を考えるし、とっさの機転でピンチを切り抜ける。

 そんなスーパー・ヒーロー、ドラモンドが単身活躍する物語かと思っていたらそうではない。何人もの仲間とチームを組み、彼らに指示を与えながら集団で敵に立ち向かう展開は少々意外であった。ドラモンドには当然、組織を指揮する技量も備わっているのである。そして彼ら仲間達との掛け合いもまたユーモラス。

 二百ページしかないし読み味も軽いし、ちょっとした消閑に適した佳編である。