累風庵閑日録

本と日常の徒然

『命取りの追伸』 D・ボワーズ 論創社

●『命取りの追伸』 D・ボワーズ 論創社 読了。

 事件も展開もひたすら地味。ただでさえ面白味が乏しいところへ、訳文の独特な味わい(婉曲表現)には大変難渋させられた。書いてある意味をちょいちょい把握できずに、文章を追う目が止まってしまう。訳者は英米文学翻訳家だそうで。巻末に記載の一冊の他に、娯楽小説を訳した経験はおありなのだろうか。

 ってな不満はあれど、結論としては概ね満足。わずかな「違い」が重大な意味を持っていたり、早い段階で描かれたちょっとしたエピソードが伏線だったり、いかにも型通りな展開が嬉しい。びっくりするくらい素直すぎる手がかりが微笑ましいが、別の心理的な手がかりはお見事。結局、多少文章がしんどくても、ちゃんとミステリらしいミステリを読めれば満足なのである。文章のしんどさのおかげで、面倒臭くてつい読み方が荒っぽくなってしまったのは残念だけれど。続編も読みたい。ただし今度は別の訳者で。

●お願いしていた私家版の本が届いた。
『二枚の肖像畫』 L・J・ビーストン 湘南探偵倶楽部
昭和十年に黒白書房から刊行された本の復刻版である。