累風庵閑日録

本と日常の徒然

『不死の怪物』 J・D・ケルーシュ 文春文庫

●『不死の怪物』 J・D・ケルーシュ 文春文庫 読了。

 先日読んだボワーズがしんどくて普通のミステリに少々食傷したので、口を変えようとクラシカルな怪奇小説を手に取ってみた。いやはやこれは面白い。ハモンド家に千年以上に渡ってとり憑き、時の当主に禍をもたらし続けてきた謎の怪物。その正体を、若く美貌の霊能力者が探求する。

 考古学に民俗学占星術錬金術といった要素が豊富に盛り込まれており、趣向沢山で賑やか。四百年前の魔術師が残した実験室、教会の銘版に彫られた異形の姿、死罪になった者の手首を切り取って乾燥させた「栄光の手」といった、中二心(ちゅうにごころ)をくすぐるネタが満載で、物語に引き込まれる。我々の住んでいる世界が三次元、霊界が第四次元、そしてこの怪物はもしかして第五次元の存在かも!! ってな風呂敷の拡げっぷりが愉快。怪物の正体が(伏字)なのも私の好物である。

 古文書や碑文の読解、そして古墳の発掘などを通じて得られた手掛かりから怪物の正体に迫る展開は、謎解きミステリの面白さも漂う。霊能力者は祈りや呪文ではなく、論理によって怪異に立ち向かうのだ。カーナッキやサイレンスと並ぶ、心霊探偵ものの傑作。