累風庵閑日録

本と日常の徒然

『霧の中の館』 A・K・グリーン 論創社

●『霧の中の館』 A・K・グリーン 論創社 読了。

 十四年前に東都書房版で読んだ「リーヴェンワース事件」は、冗長な描写と回りくどい会話とで、読むのがなかなかしんどかった記憶がある。ところが本書に収録されている作品は、短いこともあってか捻りと切れ味とが前面に出て、予想外の拾い物であった。

「深夜、ビーチャム通りにて」の切れ味と、「消え失せたページ13」のシンプルな趣向が秀逸。表題作はアイリッシュの某短編を連想したが、あれほどの捻りには及ばなかった。だが、徐々に盛り上がってゆくサスペンスは読み応え十分。

 ともかくもこうやって翻訳出版されたことについては、論創社を大いに称揚したいところである。日本語で手軽に読めるというのは、大変に素晴らしい。だが、バイオレット・ストレンジものでまとまって訳されなかったのがちと残念。